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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
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王太子のDucal place攻略記:2


 その後。一行は王太子と聖女にそれぞれに用意された部屋に荷物を置くと、すぐに王太子の部屋へと集合した。

「――どうにか、この本邸――城、と言った方がいいんでしょうか。とにかく、留まることができましたね」

「あぁ。まぁ、こじつけにも近かったが、事実でもあったからな。確実性はなかったが、何とかうまくいって助かった」

 そう言って、肩の荷が下りたようにほぅ、と息を吐く王太子。

 そんな彼にシリカはまだ気は抜けませんよ、とベールの向こう側から警戒を促した。

「あぁ。わかった」

「気を付けてくださいね。ここは敵地。どこから襲い掛かられるか、わかったものではないのですから」

「わかっているさ」

「それならいいのですが。……にしても、本当によろしかったのですか、レジストバリアーを掛けなくて」

「ああ。ちょうどよく、今回の訪問に際して、ルードが面白いものを城下で見つけてきてくれてな」

 王太子は、腰に差していたナイフを取り上げると、シリカにちょっとだけ抜いてそれを見せる。

「これは武器であるにもかかわらず、『毒無効』の特殊効果によってあらゆる毒を防いでくれる、なかなかにユニークな武器でな」

「なかなかに面白い品ですね」

「ああ。ルードが馴染みの錬金術師の店で見つけたらしくてな。護身用にどうかと買ってきてくれたんだ」

 ナイフなら寝ている間に懐に入られても、すぐに反撃に転じることができるしな、と彼はなかなかにご機嫌そうであった。 

 ――彼らとは別ルートで全く同じ品を手に入れたとある少女達(・・・・・・)が、このナイフに対して辛辣な評価を下していたことを、彼は知る由もなかった。

 とにもかくにも、これで公爵領にとどまる正当な理由を、公爵家側に突きつけることができた。

 あとは、いかなるタイミングで仕掛けるか。そのタイミングが重要だ。

「……そういえば、シリカ。敵の首領について、俺達はエレノアの母レティシアと見込んでここへ来たのだが……それに間違いはないのか?」

「…………わかりません」

「わからない?」

 王太子は、シリカの言葉に首を傾げた。

 とはいえ、それは何を言っているのか、という意味ではなかった。

 彼は、確かにシリカの持つ『真実の眼』の正確さを疑ってはいない。

 そしてその上で、決して限界がないわけではないこともすでに知っていた。

 だから、彼が今行っているのはシリカの答えに対する考察である。

(相手は、それだけこちらを警戒しているということか……? それとも単純に、『真実の眼』の力を欺ける程度に実力があるだけということか……?)

 王太子は、しばらく考えた後、シリカにもう一度問いかける

「相手が、少なくとも公爵夫人ではないことだけは掴めたのか?」

「いえ……それすらも、掴ませてはもらえませんでした。スキルやそのほかの情報からも、なにも異常は見受けられませんでしたし……」

「逆に言えば異常がないからこそ彼女はサキュバス関連では『白』……とは言い切れないのが怖いところだな」

「はい。正直、『毒』やそのほかの魔法で操り人形にされている可能性も否めませんし、単純にそれだけ相手の隠蔽が巧妙という可能性だってあり得ますからね……」

「確かにな。…………操り人形、か……」

 王太子は、シリカの言葉を聞いて、ふと数週間前に城下町の冒険者ギルドから上がってきた情報を思い出した。

(確か、通常では考えられない、特異なグラウンドドラゴンの個体が現れた、と言っていたな……。確か、そいつが使っていた呪いが……)

「『マリオネットチャーム』、か……」

 おそらくは、高位のサキュバスであればそういった呪いも容易に使えるだろうと王太子は考えに至る。

 もしエレノアの母がその呪いに掛けられているとすれば、彼女を痛めつけるのは論外と言える。なにしろ、ただ操られているだけなのだから。

 シリカは、王太子のその可能性を聞いて、なるほど、その可能性もありますね、と考え込む。

 なんにせよ、現状では、八方ふさがりである。

 ただ――まだ、手が残されていないわけでもない。

「取り合えず、さっきの今ですが、公爵夫人のもとに再び行ってみましょうか。妙手というわけではありませんが、一つだけ手がありますので」

「ほぅ、それはありがたいな。よし、早速試してみるとしよう」

 王太子は、早速と言わんばかりに、勇み足で部屋から出ようとした。

「わわっ、殿下、お待ちください! 油断は禁物です! 少なくとも事前準備はしっかりとしなくては!」

 ――まぁ、さすがにこの時ばかりは敵陣のど真ん中で不用心すぎるとシリカによって行く手を阻まれ、しぶしぶとテーブルへと戻っていったが。


 ――その後。

 持ち込んできた茶葉とティーセットを使ってお茶を用意し、護衛も併せて四人でお茶を飲みながら、王太子の勇み足によって中断された作戦会議は再開される。

「それで、具体的にはどんな方法なんだ?」

 王太子は、静かにティーカップをテーブルに置くと、静かにシリカに問いかける。

 現在、お茶を飲むために、シリカはそのベールを一時捲っており、めったに見られない素顔が覗けるようになっていた。

 とはいえ、それでまじまじと彼女の顔を見るようであれば、後々彼女の護衛から冷たいあたり(・・・)方をされてしまうことが確定してしまうので、そんなことはしない王太子であったが。

 王太子の質問に、シリカは確実性は未知数ですが、と前置きをしてから、

「神聖魔法を使ってみようと思います。……先ほど、レーペンシュルク公爵夫人と相対した時、彼女は私を見て非常に警戒していた様子でしたから」

「それは……」

「私は聖女ですからね。サキュバス――魔族にとっては、天敵以外の何ものでもありません。警戒して当たり前です」

「…………ふむ」

 シリカは、王太子が頷いたのを見届けてから、

「肝要なのは、サキュバスも含めた魔族にとって、なぜ聖女が点滴なのかという理由です。それは――神聖魔法に用いる神聖な魔力が彼ら彼女らにとって非常に有害だからにほかなりません」

「……確かに。それは、理解できるな。そもそも、そうでなければなぜエレノアがサキュバスにつけ狙われるのか、という話にもつながるしな」

「そういうことですね。話を戻しましょう。そうであるならば。レーペンシュルク公爵夫人がどうであれ、彼女に神聖魔法をかけてみれば、何かしらの糸口は見つけられるのではないか、と思ったのです」

「なるほど」

 ただ――と、そこでシリカは少し言葉を濁らせる。

「私も、そして王太子殿下も、敵が使用してくると思われる魔法への対策は、確かに準備してきました。……してきましたよね」

「ああ、そのあたりは抜かりなくな」

 サキュバス族と戦うにあたって、王太子は一応分権を読み漁り、どのような対策が必要かを読み解いた上で、身に着けてくる服飾雑貨を選んできたのだ。

 『夢魔法』に『精神魔法』、『毒魔法』。対策は、万全のはずだ。

 その王太子に相対するシリカも、それは同じだろう。

「私が身に着けているこの衣も、おおよそ妨害魔法を遮断する効果がありますから、今回の相手が使ってくるだろう攻撃手段は無効化できると考えています」

「なるほど。……君たちは?」

「私も、鎧の下に聖女様が仰ったとおりの装飾品を身に着けておりますので、対策はできていると存じております」

「同様にございます。といいますか、私の今回の装備品はほとんど殿下が用意してくださったではありませんか」

「はは、そうだったな」

「ただ、どちらにせよ備えすぎて損はありません。一応、『レジストバリアー』をかけておきましょう」

 シリカはそういうと、自身も含めた全員にその魔法をかけ、敵の間接的攻撃への守りをより強固なものにする。

 そうして、準備を終えたところで、では、と王太子は席を立つ。

 今度は、シリカも止める気配もなく王太子の後に続く。

 ――ふと、扉の前に立ったところで、今度はその王太子が、待ったをかけた。

「そうだ……言い訳を考えていなかったな」

「そういえば……でも、それは適当でいいと思いますけどね」

「適当?」

「はい。例えば、早速領都を見て回りたいけれど、その前に一言断っておいた方がいいと思ったから――とかどうです? 多少は訝しがられるとは思いますけど、たぶんあってはくれると思いますよ。王太子殿下なのですから」

「なるほどな」

 そういえば、と王太子は自分が用意してきた、滞在するための言い訳として用意してきた資料のことがすっかり頭から抜け落ちていたことに気づく。

 これは、このままではだめだなと王太子は頭を振る。

 シリカからも、苦笑しながらしっかりしてくださいと言われる始末で、いろいろと形無しだ。

 王太子は申し訳ないと謝罪を入れてから、では行こう、と部屋の外へと出るのであった。


 しかしながら、二人は本日、サキュバスという種族の真の力を思い知ることになる。

 二人は、油断など決してしていなかった。

 最終確認の時にも本人たちが言っていた通り、サキュバスが使うであろう戦術への対策は万全に整えていた。

 そう、万全に整えていた、はずだったのだ。

 しかし、彼らはそれでも足りなかったのだ。

 彼らが相対したことのない、高位のサキュバスという存在の、実力の高さを。



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