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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
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王太子のDucal place攻略記:1

 ――時間は遡り、同日・昼過ぎ。レーペンシュルク領。

 シリカは、護衛の聖騎士と王太子、およびその護衛とともに、サキュバス族が引き起こしていると思われる一連の事件を解決へと導くべく、王都を離れ、ここレーペンシュルク領へと赴いていた。

「…………到着しましたね、王太子殿下」

「あぁ。……ここはもう敵地だ。何が起こるかわからない。気を付けて公爵邸に向かうとしよう」

「そうですね」

 レーペンシュルク領は、王都からはそれなりに離れた場所にある。

 長い間椅子に座った状態を強いられていたせいか、体が心なしか凝り固まった状態となっており、シリカはベールが頭から落ちないように気をつけながら、可能な範囲内でその凝りをもみほぐした。

「それにしても……鉄道、というのは本当に便利ですね」

「あぁ。俺が生まれたころには、もう鉄道はすでにある程度敷設されていたらしいが――今は、王都から地方へだけではなく、地方から別の地方へとつながる鉄道網も建設されつつある。利便性はどんどん高まるだろうな」

 近代化が進み、移動手段の高速化の研究も進みつつあるこの世界。

 大勢の兵士を、より遠地へ、より早く。そのコンセプトのもと、鉄道魔導船(レールシップ)と呼ばれる輸送手段の開発は、他の自動化された移動手段と比べても比較にならないほど早い段階で着手された。

「鉄道ができて以降は、輸送の概念が大きく変わってしまったと聞く。特に軍事においては――」

 たった一回で大量の兵と、武器と、物資を戦線に近いところまで送り届けることができる。

 それは、それまでの馬や馬車を用いた進軍や輸送とは比べ物にならないほどの速さを叩き出した。

「その上――ははっ。父上がこの前言っていたが、近隣諸国、この国も含めて、今度は鉄道や魔導車の技術を用いた攻撃手段の研究にも着手し始めているらしい」

 王太子が言うには、これまで大規模魔法や、強力な支援魔法はすべて腕利きの魔法使いありきであった。

 それを、大掛かりな機械装置を作成し、術式を刻み込んだ基盤を組み替えるだけで誰もが、簡単に、速やかに求められている強力無比な魔法を放てるようにする。そんな構想が、すでにできているという。

「なんでも、魔導戦車や列車魔導砲という仮称が着けられているらしいが――」

「それは……少し、恐ろしい話ですね」

「まぁ、笑えない話なのは確かだろうな……」

 そういった発明品が出回るようになれば、当然国家間の戦争が勃発した際に発生する犠牲者は増える。

 正当な理由がない闘争を禁じ、またそうなっても極力犠牲になる人を減らすようにと言う教会に属するシリカからすれば、待ったをかけなければならないものだろう。

「それを殿下は良しとしているのですか?」

「俺も良しとはしないが……周囲の国がそういう方向に走るのであれば、ルベルト王国としても黙ってみているわけにはいかない」

 国防という観点に置いて周囲よりも出遅れるということは、それだけ諸外国から向けられた脅威に対する対応力の不足に繋がり、そうなれば民草に及ぶ被害も増えることになる。

 そう言われれば、教会の教え云々を説きたいシリカと言えど、言葉を飲み込むしかなくなる。

 ややあって、どうにもしがたい閉塞感から思わず出たと思しき言葉を彼女はボソッと呟いた。

「……どうして、そういうふうになってしまったのでしょうか」

「さて……理由などいくらでも考えられるさ」

 それに対し、王太子は律儀に応えた。

「だが、一番大きかったのはやはり、鉄道、そして魔導車の台頭、かな」

「鉄道や、魔導車が、ですか……?」

「あぁ。人ってのは、新しいものが開発されるとそれにどんどん多様性、万能性を求める性分だからな」

 例えば先ほど王太子の言っていた列車砲にしたって突き詰めれば鉄道という設備を、軍事利用できないか、それによって他国よりも優位な立場に立てないかという軍部の狙いが明け透けに見て取れる。

 もしかしたら順番としては、軍事目的で鉄道を敷設したのちに、民間にも利用できるようにした、というケースもあるだろうが――いずれにせよ、多様性の追求ということに他ならない。

「鉄道ができて、ヒトとモノを早く多く、流すことができるようになった。それなら、兵を、軍事物資を一刻も早く必要とする場所へ。そしてその先に、直接兵器として転用できる技術を。人の性を考えれば、そうなるのも至極普通のことだ」

 大切なのは、それを乱用しないこと。決して、抑止力を暴力に変えないこと。

 教会の教えは、例え扱われる武器がいかなるものへ変遷していったとしても、揺るがない。根底的な部分からは決してなくならない。

 王太子は俯くシリカにそう言って、それではそろそろ行こうか、と魔導車から降りていった。

「…………教会の教えって……、意味あるのかな……」

 王太子の言葉を聞いて、しかしシリカの心の中には、一連の会話により生じた小さなしこりのようなものが生じ、彼女を苛み始めた。




「王太子殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう。このレティシア・レーペンシュルク、殿下のご尊顔を拝見できましたこと誠に喜ばしく思います。……可能であれば、先触れくらいは出しておいてほしかったのですけれど、ね」

 王太子達の視線の先、応接用のテーブルを挟んで反対側に座るのは、聖女として祝福を受けたエレノアの母にあたる妙齢の夫人。

 公爵夫人らしく、どこか妖艶ながらも淑やかさもそこに両立させた佇まいは、異性からのみならず同性からも注目を集める。

 気高き風格を感じさせるには十分すぎるものであった。

 ――が。王太子達は、先触れもなく電撃訪問をかました彼らにとげとげしい言葉を送った彼女に、妖しい気配がまとわりついていることをすぐに察知した。

 特にシリカは教会所属の聖女として、魔物や魔族が発する特有の気配には物凄く鋭敏になるよう鍛え上げられている。

 レティシアが纏う気配が、魔族のそれであることを早々に気づいた。

「それで、王太子殿下に教会所属の聖女様が、そろって直々に我が家に訪ねてくるとは、どのようなご用件でしょうか。病床に臥せっている我が夫に代わり、このレティシア・レーペンシュルクがお聞きいたします」

「ふむ。実は、このレーペンシュルク領でなにやら不穏な品が密かに作られていると情報が入ってな。様子を見に来た次第だ」

 王太子が率直にそう言うと、ぴくり、とレティシアは眉を動かして、

「あら、王太子殿下は恐ろしい方ですのね。まさか、そんな根も葉もない噂を聞いただけで、抜き打ち訪問をしてくるだなんて」

「火のない所に煙は立たぬ、ともいうが?」

「あぁ、恐い恐い……本当に恐ろしいですわ。大体、そんな与太話にどのような根拠があるというのですか? 王太子と言えど守る礼節はあってしかるべき。だというのにそれを度外視してまで詰問しに来たのです。相応の準備があってのことなのでしょうね……?」

「…………っ」

 レティシアの放つ、そのプレッシャー。

 魔力など使わない、純粋に公爵夫人としての威厳のみで放たれるそれに、しかし王族としてはいまだ未熟な王太子は、思わずたじろいでしまう。

 しかし、彼は気丈にそれに立ち向かった。

「カレン。例の書類を」

「御意」

 連れてきていた従者に一言そう命じ、渡された資料をレティシアに見やすいように向きを整えてから、そっと差し出した。

「この領に定期的に送り込んでいる査察隊からの情報だ。……見ての通り、軍需工房が活発に動いているらしいな」

「えぇ。ここ最近、魔物が活発化しているようでして。その分、武具の発注も多くなっていますからね」

「ほう……」

 王太子の詰問を、レティシアは華麗にこれを躱してみせる。

 確かに、資料の一部には、レーペンシュルク領でのここ最近の魔物の活動についても書かれており、同様のことが書かれていた。

 食い違いはなかった。

「何か、装甲の堅い車両のようなものを作っていた、という情報もあったが?」

「我がレーペンシュルク家では現在、戦場でも運用が可能な、守りの堅い軍用装甲車を開発しておりまして、完了して量産体制が整った折には、国の正規軍に売り込もうとも考えています。おそらくはそれの開発現場を見てのことだったのでしょう」

「なるほどな。に、しては我々にはそういった情報は入ってこなかったのだが?」

「大切な商売の種ですもの。機密保持はどこでもやっていることでしょう?」

「ふん、確かにな」

 より踏み込んだ話題を振ってみても、やはりレティシアは暖簾に腕押し、を体現するかのように軽やかに言い訳を述べて追及を回避。

 王太子は鼻を鳴らして、疑わしくもその正当性を認めざるを得なかった。

 それ以降も手を変え品を変え、様々な方向からレティシアに切り込んでいく王太子であったが、レティシアもまたのらりくらりとその問答をやり過ごし、ついには王太子の方がネタ切れを起こしてしまった。

「ふふ、もうおしまいなのですか? 意気揚々と突撃をしてきたわりにその程度。それでよく、この国の次代を任されましたね」

「ふん、言っていろ。俺とて、これで帰るようでは次期国王としてはふさわしくないと思っているしな。そもそも、この資料からすべてを読み取ったわけでもなし。これは、ただ監査隊がこの領の近況を、見た範囲内から推測しただけのものにすぎないからな。だが……だからこそ、しばらくここを拠点に活動させてもらおうと思っている」

「ほぅ……左様にございますか…………」

 レティシアは、そこで初めて目を細めて――まるで、得物を品定めするかのように、観察するような視線を王太子と、そしてシリカに送る。

「滞在期間はどの程度とお考えですか?」

「さぁな。どこぞの誰かが妨害工作などしなければ、それだけ早く済むやもしれんが……まぁ、この広いレーペンシュルク領だ。軽く様子を見るだけにとどめるにしても、数日はかかるだろうな」

 その表情のまま、王太子にそう問いかけるレティシア。

 王太子が答えたところで、ふっとその値踏みするような視線はなくなり、もとの歴戦の淑女然とした佇まいへと戻っていった。

「かしこまりました。では……部屋をご用意させますので、準備ができるまでは引き続きこの部屋でお待ちください」

 そして、存分に、気が済むまでお調べくださいと言い残して、彼女は退室していった。



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