Weak pointを克服せよ:2
それはそうとして、本当にどうするべきかを考えなければならない。
「えー、話がそれかけたので、本筋に戻しますよ?」
パッセと女性冒険者とのなれ合いでそれてしまった話の流れを、コーネリアがパンパン、と手を叩いて一同の傾注を促しながら、軌道修正した。
「ルルネ様にはルルネ様の仕事というのもあるでしょうし、頼むのは最後の手段にしたいとお嬢様もお考えのことでしょうから、とりあえずは意見の一つとして置いておくだけにしましょう。他に、何か意見はありますでしょうか」
最悪、女性冒険者――ルルネに頼るという可能性も示唆しながらも、主のそれには消極的という意志をくみ取った彼女は、別に何か意見があるかどうかを改めてこの場にいる面々に聞く。
「私から一つ、いいでしょうか」
「はい、大丈夫ですよ、パッセ様」
最初に手を上げたのは、パッセだった。
コーネリアが最終手段と言った、ルルネに頼むという手段はルルネ自身が申し出たというよりは、話の流れで自然とそういうふうになってしまったという方が正しく、意見として取り扱えるかもはなはだ疑問なところであった。
ただ、エレノアもそのことを心の片隅でとはいえ、考えていたことなのだと正直に答えたため、意見のような形で扱われてしまったが。
パッセは、それではと前置きをしてから、
「実は、私の知り合いに、治療魔法と付与魔法という、戦闘職のサポート要員に向いた祝福を得た子が二人いるのですが……とても気弱な上に内向的な子でして……」
「なるほど……ちなみに、言い方からすると成人してからまだそれほど時間が経っていないのかしら?」
子という表現を用いていることから、エレノアはパッセの言っている人物がまだ若いと推測した。
パッセはそれに頷くと、
「二人ともまだ成人して間もない子です。ただ、その性分が災いしてか、思ったように雇われ先で働くことができず、先行きは不安ですね」
「そう……」
話を聞いたエレノアは、どうにかしてあげたいな、と思い、雇えるかどうかを吟味した。エレノアが今必要としているのは秀逸な人材であり、そして即戦力だ。
「うちの売れ筋の一つが、ミドルヒールスプレーです。売れ筋、という言い方が正しいかどうかはさておいて、購入してくれる人達は上位の冒険者や国の軍部の人達なので、これが作れるかどうかが一つの基準になります」
まぁ、そのあたりは最悪、私が作って輸送することも考慮に入れないといけませんけどね、と後付けでそう言いながらパッセに確認を取れば、彼は難しい表情になる。
それほどの技量にはまだ至っていないということなのだろう。
しかし、それはあくまでも一つの基準。
別に欲しいのは、エレノア以外にヒールポーションを作れる存在だ。
主力商品である、エイドヒールポーションとミドルヒールポーション、そしてエイドヒールスプレー。それらを作れる人は必須だ。
「パッセさん、その子が作れるヒールポーションは……?」
「働いている場所は薬屋らしく、ヒールポーションの作成を頼まれているそうです。本人が語っていた話では、エイドヒールポーションとミドルヒールポーション、それとエリアエイドポーション――この店ではスプレーとなっていますが、それの製作を任されているそうです。ただ、年配のベテラン薬師にいびられているとか……」
「そう……」
その店の品ぞろえが気になるところではあるが、薬師と言うからにはその年配薬師はヒールポーションではなく普通のポーションを製作するのが生業なのだろう。
となれば、それはエレノアが気にするべきところではないだろう。
エレノアは、パッセの言っている人物がこの店でやっていけるかどうかを考え始める。
「コーネリア、頼んでいたデータはできている?」
「はい。パッセ様、こちら、お嬢様が挙げました三品の、開店初日から本日までにわたる売上数の推移になります。それと、こちらはお嬢様の製作しているヒールポーションの材料ですね」
コーネリアに頼んでいたのは、エレノアが挙げたポーションの売上数の推移を示した、折れ線グラフだ。
ちなみにエレノアの店ではポーションに解毒効果などの付加価値をつけたものも販売しているが、それらも使用している魔法別に合算して計算している。
「ありがとうございます。…………なるほど。私でははっきりとは判断できかねますが……とりあえず、問題なく作ることはできるのではないか、と思います」
パッセは自分なりに考えながらエレノアの先の問いに対する答えを出し、そして実際に本人たちに対応可能かどうかを確認するために、これを本人たちに見せても構わないかとエレノアに申し出る。
とにかく人が欲しいエレノアは、これに頷くと、よろしくお願いします、とパッセに頭を下げた。
パッセの話が終わると、今度は女性スミスが声を上げた。
「あたしは、一代目だからまだわからないんだけどさ、こういうのって、身内から融通することもできたりするんじゃないかい? とくにさ、エレノアさんのとこは公爵家なんだろう?」
「その線も考えてはいますが…………」
公爵家の関係者から派遣するのであれば時間はかからないだろう。しかし、一から人手を探して面談をして、となるとそれなりに時間がかかる見通しである。
「私からは何とも……。ただ、サキュバスの件が片付き次第、私の方でも動かないとかな、とは思ってます」
実際問題、これはエレノア店の問題であり、突き詰めればこの場ではエレノアのなのだ。であれば、彼女が動かなくてはならない。
それに、ミドルヒールスプレーなどの高価格帯のポーションを購入していく人もいるのだ。
しかもそういった人達はリピーターである。絶対に手離したくはないとエレノアも考えているから、彼女も全力で動こうという意志はある。
ただ、惜しむらくは本格的に動けるのはあくまでもサキュバスの一件が片付いた後。そして、公爵家に戻ることがかなった後の話だ。
それまではこうして、今ある人のつてを頼るしかない。
「今日届いたこの手紙も、そうなる可能性が濃厚、とは書かれていますが、絶対とは書かれていませんからね」
「少なくとも、まだどうなるかはわからないのが実情ですね。こういうのが一番対処に困るのですが……」
「まぁ、取れる対策を取っていくしかないんじゃないかな」
「お前は本当に簡単にそういうよな」
口々にそう語る面々を見て、エレノア(のナカノヒト)はこちらの世界で目を覚ましてから、本当にいい人達と巡り合えたな、と感慨にふけるのであった。
会合はエレノアの店が閉店し、集計業務が終わってから行われたため、議論が終わったのは深夜だった。
会合に参加した人たちは、夜も遅いということもあって、エレノアの店に泊まっていくことに。
そうして客人たちが会合が開かれていた食堂から退室していった後、後片付けをしていてたエレノアは、コーネリアにパッセのおかげでどうにかなりそうな道筋は見えたかな、と会合の感想を語った。
「少なくとも、これで最低限の供給は保たれた、のかな」
「さぁ、どうでしょう。パッセ様のお知り合いが日にどれほどのポーションを作れるかにもよるでしょうし――その方々の技量、力量にもよるところが強いですからね」
今この場で断定するのはまだ早い、とコーネリアはエレノアの楽観視を否定する。
「先行きが不透明な以上、やはりここは最悪を想定して動いた方がいいのではないかと」
「最悪?」
「そうです。パターンは数通りありますが――まず、パッセ様のお知り合いがパッセ様のお話とお誘いを拒否した場合。それから、パッセ様のお知り合いがこの店に来てくれはしたものの、賄えるポーションの数、または種類に限界があった場合。その両方の場合があることを考えて、予備人員としてもう少し、候補者を探していくべきかと存じます」
「まぁ、それはそうだけどね……」
ただ、これ以上はもうエレノアのつてでは無理がある。
これ以上は、商業ギルドで相談するほかないだろう。
「商業ギルドに、相談を持ち掛けてみるかな……」
「お嬢様が公爵家に戻られれば、先触れを出して、着飾って、などと一つのことをするのに一々準備が仰々しくなるのも確か。今の段階なら、まだ安易に商業ギルドに行っても何も差支えはありません。先々のことを考えれば、そうするのが一番でしょう」
「うん……そう、だね。それじゃ、明日にでも商業ギルドに行ってみる」
「はい。私も、お供してよろしいでしょうか」
「お願いできる? 事態が事態だから、護衛がいてくれると助かる」
「承知しました。わが身のすべてをもって、お嬢様をお守りいたします」
コーネリアの強さは、『真実の眼』で見た限り、折り紙付きと言っても過言ではないほどだった。
『ツイント』ではチュートリアル用の敵キャラで、コーネリア側が手加減した状態で相対することになるのだが――実際のところ、この国の精鋭が束になってかかっても勝てるかどうか、というほどに強かった。
どうして『ツイント』で味方になってくれなかった、とエレノア(のナカノヒト)が思ったほどである。
だから、実際にコーネリアが護衛を兼ねてくれるなら、この上ない安心感が得られるのだ。
「あとは、サキュバス関連の問題がどうなるかだよね……」
「えぇ。それが終わらないことには、私達も動きようがありませんから……」
エレノアは、レーペンシュルク公爵家に突撃していった王太子達は果たして今どうなっているのだろうか、と思いを馳せながら、片付けを終えた食堂の明かりを消し、寝支度を整えるために自室へと向かうのであった。




