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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
31/66

動き始めたIntrigue:2


 シリカは現在、ルベルト王国の王都にある学園に通いながら教会で聖女としての仕事をしつつ、エレノアの店でポーション作りのノウハウを学ぶという三足草鞋の生活を送っている。

 とはいえ、学業が絡む関係上、どうあっても自由に使える時間は限られ、必然的にエレノアの店に行けるのは週に3日程度だった。

 それでもとても早い段階でポーション作りの基礎をマスターできたのは、彼女が努力型の天才だったからだろう。

 エレノアの店でレクチャーされたことをもとに、彼女は数少ない自分が自由に扱える時間は元より、隙間時間を使ってポーション作りの練習に励んでいた。その結果が結実したのである。

 さて、話を戻して、シリカは三足草鞋の生活を送っている状態だが、彼女が王太子と王城で話をしていた際に怪しい気配を察知。その後、潜伏していたサキュバスを発見し、これを討伐したのはすでに話に触れていた。

 シリカは、エレノアの話も絡める形で王太子とそのことに関する話をしようと、王城へと赴いていた。

 彼女自身、エレノアと再会した後、彼女のことを気にかけていた人物の一人である王太子と会い、その一切合切を伝えてはいた。

 ゆえに、王太子もまた、エレノアの現状を知る人物の一人となっていたのだが――王太子も、そしてシリカも、国の深部にサキュバスが潜んでいたことを鑑みて、いよいよエレノアの追放にはなにか陰謀めいたものがあるのではないか、と疑りをかけている。

 シリカもそれは同じであり、むしろその疑念はシリカの方が強いと言っても過言ではないが――だからこそ、現状、シリカと王太子の結束はより強いものとなっており、その注視する先にエレノアの店、引いてはエレノアの幻影が見え隠れしている状態となっている。


「それで、彼女の状況は?」

 王太子がエレノアの状況を知って以降、頻繁に行われるようになった、聖女と王太子の会談。

 気密性が高いということも相まって、同席するのは双方が信頼を置いている護衛の武士(あるいは騎士)の一人だけ。

 彼ら彼女らもまた、王太子と同じようにシリカを虐げたとはいえ、余りに不当な処罰をエレノアが受けたと聞き、彼女のその後を慮っていた人たちの一部である。

 王太子の短い問いかけに、シリカは深刻な面持ちで答える。

 実際問題、エレノアの周囲の人の身に起きた事件を考えると、とても深刻な状況と化しているのは事実である。

「はい。予断を許さない状態のようです。――昨夜、エレノア様が現在懇意にしているという、商業ギルドの職員の方が見えられたのですが…………一人、行方不明者が出ている模様です」

「なんだって……? 厄介なことに……」

「えぇ。さらに厄介なのが――その方は、つい先日もサキュバスの手に落ちていました。このことから、奪還時に何かしらの『仕掛け』を施されていた可能性が高く――」

「なるほど。こちらの状況が、向こうに筒抜けになっていたとしてもおかしくはなかったということか……」

「はい……。『真実の眼』も、鑑定系のスキルとしては最上位といえど、いくらでも欺く方法はございますゆえに――サキュバス族、思っていた以上に知謀に秀でている模様です」

 なかなかその尻尾を捕まえることができないどころか、逆にできるものならやってみろ、とわざとらしくその尻尾を見せつけられているような感じにすらシリカは思えてしまう。

「そうか……。そういえば、こっちの方でもあれからいろいろと調べていてな。少しだけ、サキュバスのことについて勘違いしてたことも判明した。伝聞の不確かさを思い知ったよ」

「勘違いしていたこと、ですか……? それは一体……」

 王太子はそこで、傍らに置いていた資料の写しをシリカに渡した。

 自動化が進んでいる昨今、製紙技術は元より、印刷技術もそのあおりを受けつつある。

 すでに王城では、そうしたものに関しては魔道具による印刷技術を使用しており、欲しい資料はわざわざ書き写さなくても、印刷だけすればよくなっていた。

「見てほしい。…………今まで俺達は、サキュバス族は精神に作用する魔法を多用し、人々を惑わせ混乱に陥れる。そのように解釈してきたが、実際には違った。奴ら、もっと悪質でしかも手札も多い」

 シリカは王太子の言葉を聞きながら、渡された資料を読んでいく。

 その生態、魔力の性質(エレメント)。何を好み、何を嫌うのか。

 そして相手を攻撃するときは手始めにどのようなことを行い、どのようにして仕留めるのか。

 それらのことが数枚にも及ぶ資料に事細かに記載されている。

「これは…………こんなことが……教会でも、これは把握しきれていませんでした」

「俺もこの資料を発見した時は驚いたさ。見ての通り――奴らは、本当に向かい合って戦うその時になるまで、精神に作用するような魔法は一切使わない。いや、厳密に言うと語弊があるんだろうけど――少なくとも、精神魔法(・・・・)として分類されるような魔法は、策をめぐらせる段階では一切使わないらしい」

「これでは――これでは、エレノア様が作られたアクセサリは、一切役を成さないではありませんか!」

「あぁ。『精神魔法耐性』は、精神魔法には文字通り作用するが――精神に影響を与える()には、一切関知しない。つまり、サキュバスが本気で策をめぐらせれば、確実にスルーされてしまう」

 そして、エレノアの置かれた状況を鑑みるに、サキュバス族はすでに本気だ。本気でエレノアを――聖女という存在を潰しにかかっているのだ。

 すでに少なくとも一人、サキュバスの手に落ちている。それも、二度にわたってだ。

 さらに国の深部にまで食い込んでいた。

 厳重な警備が敷かれているはずの王城に堂々と潜り込み、そしてエレノアと同じ聖女であるはずのシリカにすら、つい最近まで気づかれずに出入りしていた。

 潜り込んでいたサキュバスへの尋問から、少なくとも五年ほどは潜伏していたことが判明しており――ゆえにその手の内も加味すると、思っていた以上に厄介な敵であることが発覚してしまった。

 戦う前の段階で毒を撒き、敵を味方につけ、さらに相手方には疑心暗鬼を生じさせることで思うように身動きを取れなくさせることで動き(・・)を麻痺させる。

 気づいた時には、対等な状態では土俵に上がれなくなってしまっているのだ。

 最悪、戦う前から勝敗を決められてしまう可能性すらある相手に、どう戦えばいいのか――王太子は、生まれて初めて遭遇した難敵に、苦悩の色を隠せないでいた。

「ともあれ、『夢魔法』などという非常識な魔法まで使えるのでは、一気に捜索範囲が広がってしまうな。なにか、指針が欲しいところだが――」

「それについては、一つだけ私に思い当たるところがあります」

「そうか、それはどこだ?」

「おそらく、ですが……関係があるとすれば、エレノア様の周囲が最も怪しいかと思います」

「なに、エレノアが!?」

 シリカの言葉に何を、と立ち上がる王太子だったが、シリカは極めて冷静に、『はい、彼女の周りです』と同じ言葉を繰り返す。

「先日も、エレノア様と再会したというご報告をいたしましたが――実は一つだけ、伝え漏れていたことがありまして」

「伝え漏れていたこと……? なんだ、それは」

「そうですね。まず、王太子殿下はコーネリア様をご存じでしょうか」

「コーネリア……? あぁ、知っている。エレノアの側付きだったメイドだろう? 彼女が追放されてからのことは知らないが」

「えぇ。そのコーネリア様なのですが――現在、エレノア様の許へたどり着き、再び彼女に仕えているそうです――犯罪奴隷、として」

「なに…………?」

 物騒な単語がシリカの口から出てきて、王太子は思わず眉を顰める。

 犯罪奴隷。それは死刑の次に重い刑罰だ。

 そもそも奴隷という身分自体が、極めて制限の強い身分なのである。そんな身分に、死ぬまで一生身をやつさなければならない。それがどれほどの苦難なのか――と、王太子は思考をそらしかけ、慌てて本筋に立ち戻る。

「エレノアに加担していたわけでもないだろうし、どちらかといえば彼女に同情しつつも諫めていたではないか。なのになぜ…………?」

「それについてなのですが――」

 シリカは、エレノアから伝え聞いた話を王太子に話した。

「なるほどな……普通なら、追放された者のいうことだ、とか何とか言って聞くに値しない、と放置することもあるのだろうが……エレノアのことだからな」

「えぇ。エレノア様のことですから」

「私も同感です、シリカ様。話を聞いている限り――正直、粗が目立ちますね」

「よほど自信があるのか、それともよほど慌てていたのか……どちらにせよ、敵の尻尾がようやく手先をかすめたような感じではありますが」

 それが掴んだのか、それとも掴まされたのかはまだわからないが――と、王太子は一旦前置きをして、

「後者であれば、朗報と言いたいところだが……どちらにせよ、無視できる話ではないな」

 エレノアと深い関係にあったメイドが、エレノアの追放後暫くしないうちに同じような形で追放されている。

 しかもコーネリアの場合は、奴隷落ち、それにサキュバスの呪いというこれ見よがしのオプションまでついて、だ。

「深夜だったというのも気にかかるが、何よりもサキュバスに呪いをかけられた、というのが決定的だな。確かにシリカのいう通り、エレノアの周囲にはサキュバスの影が以前からちらついていたようだ」

 それは今も変わらないことではあるが――今の話のポイントは、エレノアの生家であるレーペンシュルク公爵家の話に移っている。すでに、今のエレノアの周囲からは離れつつあった。

「近日中に、理由をこじつけて抜き打ちでレーペンシュルク邸を訪ねる。シリカ、ついて来てほしい」

「はい、かしこまりました。私も、可能であればレーペンシュルク公爵家に纏わりついているサキュバスの影を暴きたいですからね」

 こぢんまりとした一室に集まった四人はたがいに頷き合うと、その日程や段取りを話し合い始めた。


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