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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
30/66

動き始めたIntrigue:1


 エレノアの店は、その後しばらくたっても好評であった。

 商材が商材である上に、立地もよい場所に恵まれたので、失敗するはずがない――と、エレノアは思っていたようだったが、その予測が現実のものとなった形だ。

 ただ、開店初日で体験したあの客足は、その翌日から数日間にわたり続いたものの、三日目を境に徐々に減少。

 二週間もすれば、エレノアも作業室で作業しつつ、時々売り場に出て接客を行う余裕が出てくる程度まで落ち着いた。

「最初はどうなることかと思ったけど、客足が落ち着いたら案外のんびりと経営できるようになって、安心した」

「そうですね。ただ、朝の忙しさは相変わらずですが。あと、客の一部からは、もう少し早く開店してくれないか、との声もあります」

「これでも落ち着いた方なんだけどね。朝忙しいのは客層からして仕方ないし。……あと、開店時刻の変更はなしで」

「そうですね。十分早い時間だと思いますし」

 エレノアが店を開く時間帯は、かなり早い。早朝に出立する冒険者たちが、駆け込み需要でも商品を購入できるくらいの時間帯には店を開くように準備をしている。

 これ以上早く開店すると、今度はエレノア達の生活が立ち行かなくなってしまうのだ。

 アネットが言うには、新米冒険者や初級冒険者の朝は早いという。

 まだ熟しきれていない彼らは、もっぱら王都から日帰りで帰れる程度の範囲内で稼ぎ場を見定める傾向にある、とエレノアはアネットからそう聞いたのだが、まったくもってその通りで、エイドヒールポーションとミドルヒールポーション(特に前者)は、朝に出るのが大半であった。

 もちろん、それ以外の時間帯にも出るのは出る。大体は、出遅れた冒険者や中堅以上で実力から見て割と簡単な依頼をこなしに行く冒険者。それから、大工や木工師、鍛冶師などが万が一の時のために買っていく程度。この辺りは、初日と変わらない。

 一方で、ミドルヒールスプレーやリカバーヒールポーションは、もう買う人物がほぼ固定化してしまった。

 すなわち、カイル達をはじめとする上級の冒険者や軍事関係者などの限られた人材だ。

 彼らは、常日頃から生傷が絶えない故に、いつ大けがをしても問題が内容に上位のヒールポーションを買うのだろう。

 ちなみに、本日は開店してから三週目の半ば。

 今週派遣されてきているギルド職員も、最初こそ客の入りに驚いたものの、エレノアが扱っている商材と立地から考えればこのくらいは当然だろうといえばそういうものかと納得していた。

「エレノア様、シリカ様が参られましたよ」

「そう。案内してきてくれる?」

「かしこまりました」

 そう言いながら、エレノアは作業室で着々と追加のポーションを作っていく。

 売り場に出る売り場に出る余裕もだいぶ出てきたとはいえ、それでも開店当初と比較しても三分の二はキープしている。

 油断しているとあっという間に持っていかれてしまうような状況はいまだに続いている。

 というよりも、落ち着いてこれなら今後もずっと続いていくだろう。

 ゆえに、エレノアはやはり、売場よりも作業場でのポーション作りがメインとなるのであった。

「エレノア様、お待たせしました。本日もお世話になります」

「いえいえ。それじゃ、今日も始めましょうか」

「はい。よろしくお願いします」

 コーネリアに連れられて作業室に入ってきたシリカは、エレノアに礼をするや否や、早速自身の分の空き瓶を作業台に移した。

「それじゃあ、今日も練習頑張ろう」

「はい」

 エレノアの言葉に元気よく頷いたシリカは、早速空き瓶の中に水を出現させる。

「『セイントティア』!」

「……、なんというか、ここ数週間ずっと見てるけど、最初にシリカが言ってきたことそのまま返したい気分だわ」

 シリカが使用した水を出現させる魔法、セイントティア。

 これは、エレノアが使用している日常生活用の、誰にでも扱える『ウォーター』と違い、神聖魔法に属する攻撃魔法だ。

 そう、シリカが使用したのは一応攻撃魔法なのである。

 アンデットと魔族、そして一部の魔法生物系モンスター以外には無害な聖水を作り出すための魔法なのだが――聖水というだけあって、その効果はポーション作成に際しても絶大な効果を発揮することが判明したのだ。

 ゲームではクラフト機能で使用できなかっただけに、エレノアとしてもこれには目からうろこであった。

 ちなみにこれに気づいたのはシリカである。

 彼女は、水を魔法で出して、さらに浄化魔法をかけるという二度手間がどうにかならないものかと、エレノアにポーションの作り方を教わった時から考えていた。

 教会でヒールポーションを作り始めた後のことを考えているだろう。教会の聖女が作ったヒールポーションなど、どんな人でも欲しがるに決まっている。

 だからこそ、シリカには一人でもポーションが作れるようになった後、水を出すときと浄化魔法をかけるときで、二度手間になってしまっているのがネックになると考えたのかもしれない。

 どうにかして、時短できないものか――彼女は、エレノアにその解決策を一緒に考えてみてくれないか、と言い出したのだ。

 エレノアとしては生活魔法に浄化魔法を組み合わせる方法以上にいい方法を考え付かったのだが、言い出した二、三日後にはシリカがその答えを見出してしまったので、自分が悩んだ時間は何だったのだ、と若干落ち込んだりもしたが。

 とはいえ、今のエレノアにとっては、『セイントティア』を使って量産をするには少々神聖魔法の技量が足りないためか、『慈愛の宝玉』不使用の状態ではそれほど従来通りの方法と変わらない出来の物しかできなかった。

 なので、魔力効率的にも今は『セイントティア』によるポーションの作成はしないほうがよさそうだと判断し、今もなお『セイントティア』はポーション作りには使用していない。

「エレノア様も、ここ最近はかなりの頻度で教会にお祈りをしに参られていますから、そこそこ神聖魔法の効力も上がってきているとは思うのですが……」

「ま、そうなのかもしれないけどね。シリカほどではないでしょ」

「あはは……」

 隣の芝生は青く見えるもの。そうとはわかっていても言わずにはいられない。

 エレノアのそんな心境から思わず出てしまった言葉に、シリカは苦笑するしかなかった。




 それからしばらくして、シリカの実技講習も兼ねてポーション作りを続け、それなりにエイドヒールポーション、ミドルヒールポーションが溜まると倉庫へと移す。それを何度か繰り返したのち、エレノア達は精神的な疲労を感じ始めたので小休憩をとることにした。

 小休憩でお茶と、お茶菓子をつまみながら最初に口火を切ったのはシリカであった。

「そういえば、エレノア様。例のことについてなのですが」

「例のこと? ああ、サキュバス関連ね。何か動きでもあった?」

「えぇ。そうですね。昨日の夜、アネット様が私のもとを訪ねてきたのですが――その時に伝言を預かっていまして。まず、商業ギルドの寮内で、なにやら怪しい気配が再び漂い始めているようです。そろそろ、あちらが動き始める可能性が高いと」

「そう……」

 一応、夢魔法や精神魔法に対する抵抗力を引き上げるアクセサリは配布しているが、エレノアの思いつかない方面から攻めてこられる可能性も十分にあり得る。

 なにせ、『ツイント』においても計略においては右に出る種族がいないという設定がなされていた種族なのだから。

「ただ、いまいちその『怪しい気配』の正体を掴みかねていると。――なにか、見落としている可能性が高いので、今一度サキュバス族の生態(・・)を確かめるため、しばらく冒険者ギルドの資料室に籠る、とのことでした」

 冒険者ギルドには、魔物や魔族に関する、先達がこれまでに貯えてきた数々の知識が詰まっているのだとか。

 アネットからの伝言を聞いたエレノアは、なるほど、それなら少しは進展がありそうかな、とアネットの行動に期待を寄せる。

 が、しかし。

 シリカがその後に続けた、もう一つの伝言を聞いて、サァッと顔を青くすることになる。

「それから、もう一つ。こちらが重要なことなのですが――エリス様が、失踪したとのことです」

「えっ――!?」

 商業ギルドの寮に、怪しい気配。

 それとほぼ同じタイミングで、エレノアに近しい人物の失踪。

 エレノアの頭に不吉な予感がよぎった。

「それって――」

「アネット様は、エリス様が失踪する直前まで、エリス様ご本人には何の異常も感じられなかったと言っていました」

「そう……ほかに、何か変わったことはなかったの?」

「ほかに、ですか……いえ。特にはそれ以外には伺っていませんね」

 それでは完全に手詰まりである。

 エリスはどこへ行ったのか。なぜ失踪してしまったのか。そしてこれは人為的なものなのか、それとも本人に何か特別な理由でもあったのか。

 それらすべてが、謎のベールに包まれてしまった。

「わからない。わからない、けど……なにか、とても嫌な予感がする。それだけは確か」

「えぇ、そうですね。私も同じ気持ちです。――今後は、より一層警戒を強めるのがよろしいかと」

「そうさせてもらうわ」

 エレノアは、シリカの言葉にただ頷くことしかできない。

 今はとにかく、警戒を強めるしかできないのが実情だからだ。

 相手の出方が完全にわからなくなってしまった現状に、エレノアはどうすればいいのかと頭を抱えて唸りながら対策を練り始めた。

 ――頼みの綱は、アネットである。冒険者ギルドの資料室で、サキュバスに関する情報を探っているらしい彼女が何かを掴んできてくれる。

 今は、それを祈って待つことくらいしか、エレノアにはできることがなかった。



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