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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
29/66

幻想世界のAutomation:1

前話の後書きで予告していた通り、今回の投稿分で本作品の時代風景に関する描写が出てきています。

思っていた時代風景とだいぶ違った、ということもあると思いますが、よろしくお願いします。


「これはエレノア様。この度のご開店、誠におめでとうございます。この商人パッセもささやかながらお祝い申し上げます」

「あ、パッセさん。えぇ、どうもありがとうございます」

 開店翌日の昼過ぎのことである。

 朝早くは昨日と同じくらい混雑したとはいえ、昼間になると閑散期となり、エレノアはその時間を使って教会にお祈りをしに行っていた。

 その帰りに自店の店先でパッセとばったりと遭遇し、彼女は軽く挨拶を交わす。

 彼は前にも会った従者――秘書と言うべきだろうか――の女性と一緒になにやら打ち合わせをしていたようで、ふと顔を上げたらちょうどエレノアの顔が目に入った、といった感じであった。

 教会の教典を胸に抱え込んでいる彼女を見て、パッセは大体のところを察したように、教会でお祈りですか、と問いかける。

「えぇ。これでも私も聖女ですから。教会で聖女として磨き上げられたシリカ様に追いつくのはすでにかないませんけれど、だからといって神聖魔法を錆び付かせたままにしておくわけにもいきませんしね」

 その特性上、神聖魔法は教会などの神聖な場所でどれだけ祈りを捧げたかによってその効力が変わってくる。

 教会に拾われ、聖女として英才教育を受けてきたシリカは、自動的に教会所属ということになり、聖女としてはこの上なく恵まれた環境にあるといっていいかもしれない。

 もちろん、聖女以外の生き方もあるし、それは聖女として神に認められたものの自由だから、それが唯一(・・)の最適解かと聞かれればそうではないというのが答えになる。

 しかし、エレノアが知る今の世界が抱える問題を加味すると、やはり現状ではもっとも最適解に近い立ち位置にいるだろう。

 ただ、エレノアとしては、彼女一人にその重荷を背負わせたくはないと思っている。だから、彼女は少しでも彼女の背中に追いつくために、暇があれば教会に赴いて祈りを捧げているのである。

 無論、最終的な目標は、魔族やらなにやらの問題を解決して、その後にスローライフを送ること――であるが。

「とはいえ、もうお祈りは終わって、今は帰るところなんですけどね」

「あぁ、そうでしたか…………それはお疲れさまでした」

「はい。それほど疲れるようなことでもないですけどね……」

 その後、しばらく雑談を交えていたが、やがてエレノアはそろそろ本題に入ろうかなと、話をしながらちょろちょろとさせていた視線を、ようやっとそれに集中させる。

「…………ところで、パッセさん。これ、魔導車ですよね」

 黒い金属製のボディが重厚な、魔導駆動四輪車。後方の荷台を見れば、それは2人乗りのトラックであることがうかがえる。

 出先で仕入れを行ってきたばかりなのか、荷台には荷物がたんまりと積載されていたが。

「えぇ。もともと、購入しようかな、と思って懐を温めていたのですが、この間の一件で馬車がなくなってしまいましたからね。仕方なく、私財を投入して営業用に一台購入したのですよ」

「私用目的で購入しようとしていたのに、ですか…………」

「えぇ。まぁ、私用の馬車はまだ現役として使えますからね。ルメナはまた貯めればいいだけの話です。何も問題はありません」

「なるほど……」

 エレノアにはまだできない、おおらかな考え方。

 彼女はパッセに、尊敬のまなざしを向け、再度魔導車に視線を向ける。

 そのフォルムは、嫌に近代~現代的なフォルムだが、王都の街並みを鑑みればこうであっても何ら違和感はない。

 というのも、ゲーム『ツイント』の作中世界も、そしてエレノア達が生活しているこの世界も、どちらかといえば中世というより割と近代的な時代風景だからである。

 『ツイント』の作中世界においては、工芸革命と呼ばれる一種の産業革命が少し前(・・・)に起こっており、様々な分野で魔道具(オートメーション)化が進みつつあるという設定だった。

 その『ツイント』の作中世界とそっくりであるこの世界でも、実のところ全く同じ実情となっており、エレノアも街を歩けば前の世界がなかなかに恋しくなるような光景をしばしば見かけることになる。

 特に、交通手段においてその思いは強くなる。

 なにせ『ツイント』では――この世界では、すでに自動車モドキ『魔導駆動車』、略して魔導車と呼ばれるものが台頭し始めているからである。

 カーディーラーこそ、まだ王都や地方の主要都市などといった大きい都市にしかないし、値段も相応に高いものになっているが――それでも、元々のエレノアの記憶によるならば、大商人や上級貴族をメインに、魔導車に乗る人は増えてきている。

 それに、近代的だと思わせる光景はそれだけではなかった。今のエレノアが街中を歩いていても、王都の大通りは真ん中を路面鉄道車(トラム)が走り、その隣を魔導車が。さらにその隣、歩道として整備された区画に最も近い車道を馬車が通る様に整備されている。

 整備されたのは、元々のエレノアの記憶によればおおよそ十数年前からであり、エレノアが物心ついたころにはレーベンシュルク公爵領でも同じような整備が開始され始めたという。

 そんなわけで、王都は広しといえど、各区画へ移動するには意外と時間がかからないものなのである。

 ――とはいえ、現状、エレノアは魔導車に必要性を感じてはいないが。

 その内、景勝地やら絶景スポットやらにドライブしに行きたいなとは思っているものの、今は開店して間もない時期どころか、開店二日目である。

 店が軌道に乗るまではそういったこともお預けだろう。

 サキュバス達の動向が気になっているというのもあるが。

「そういえば、パッセさんはうちの店で何か御用入りですか?」

「あぁ、いえ。私ではなく、今回の仕入れで護衛を頼んだ方々がここに用があったようでしてね」

「護衛の方、ですか……」

「えぇ。見ての通り、この魔導車は最も安い価格帯のものでして。これを選んだのも、護衛の方々のためにと用意した別の魔導車のことも考えたからなのですよ」

「へぇ、そうなんですね」

 エレノアは、そこまで面倒を見れるほどに私財を投入したのかと思い、感嘆の声を上げるが、パッセはさすがにそこまでは、とこれを否定する。

「全部が全部、というわけではありませんよ。確かに、当初購入する予定だったものよりもかなり安いものを購入することになったとはいえ、それでも浮いた分で別の分を買うとすれば、二輪車でも1台か2台が限界ですよ。あとは経費で落としました」

 それは、どちらかといえばすべてを経費で落とすには高すぎるから、いくらかをパッセが出資したと考えるべきなのだろうか、とエレノアは思いつつ、パッセに話の続きを促した。

「幸い、知り合いにカーディーラーに勤めている者がおりましてね。そこでかなり安くしてもらえたのです」

「そうなんですね。その、お疲れさまでした?」

「いえいえ。エレノア様も、魔導車をお求めの際は私にお声をいただければ、ぜひともご紹介いたしますよ」

「あ、はい……でしたら、その内に……。多分、そう遠くない未来に、資金だけは溜まると思うので……」

 少なくとも、昨日の総利益を考えるなら、数日以内に魔導車の一台や二台は購入できるようにはなるだろう、とエレノアは考えていた。

 なにしろ、高額系のポーションもそこそこ出ていったのだ。それも、今後も需要がありそうな動きを今日もしている。

 なにより、その購入客の一人が、軍関係者の隊長格だったことが大きかった。

 彼は、交渉の結果定期的に数個ずつ卸すことが決定しており、それだけで1回あたり数十万ルメナの売り上げが定期的に入ることを意味していた。

「なるほど。やはり、気軽に治療魔法が使えるポーション、というのはそれだけで需要があるモノなのですね」

「えぇ。ただ、需要が高すぎて、前にも言いました通り他店に卸すことはちょっと無理かな、と」

 ただでさえ、今のエレノアにとって結構なハードワークになっているのだ。

 この上他の店に卸すというのは、もうオーバーワークを通り越して不可能なことであった。

「わかりました。この前も無理だとおっしゃっていましたがもしかしたら、と思っていたのですが……やはり、無理でしたか」

「えぇ、申し訳ありませんが」

 それでは、仕方がありませんね、とパッセはそこでようやっと諦めがついたようであった。


 それから、エレノアはパッセを応接室に案内し、コーネリアにお茶を頼んだ。

 パッセと向かい合う形で座ったエレノアの視界には、パッセはもちろんのこと、以前あったことのある女性の従者。そして、今回護衛として雇ったという、男女一組の冒険者が映っている。

 そしてエレノアには、その冒険者にも見覚えがあった。

「…………こんなポーションショップ、一体誰が作ったのかと思ったら、まさかキミがオーナーだったとはね」

「まぁ、この子がアンチミネラリーヒールポーションを作った子だって時点で、予想くらいはついたけどな」

「それでも、まさか本当だっただなんて思わないじゃない」

 そう、その冒険者は以前、エレノアが宿泊していた宿の亭主を介してアンチミネラリーヒールポーションを渡したことがある、冒険者カイルとその相方の女性だった。

 もしかしたら、あの聖女シリカが活動資金を集めるためにポーションを卸している、という可能性だってあったかもしれないじゃないか、と女性冒険者が言えば、カイルはそんな回りくどいこと普通するか、と反論。

 やがて痴話げんかのようになり、エレノアはやれやれ、と言いたげな視線でそれが収まるのを待った。

「しかし、意外と品数があるのね、このお店。もう少し絞るのかと思ったわ」

「まぁ、そのあたりは、さすがに……。少しアレンジを効かせたものも置かないと、さすがに寂しすぎるかなと思いまして」

「そう、そのアレンジしたポーションよ!」

 女性冒険者は、クワッと目を開いて、エレノアに詰め寄るようにして机の上に身を乗り出す。

「私も、『総合魔術師』の祝福をもらっているから、治療魔法と付与魔法にもある程度は通じているのだけれどね。それでも、あんな出鱈目なポーションは見たことないわよ! 傷を癒すついでに毒とか麻痺とかを治すやつ! いったいどう作ったのよ、あんな追加効果のあるポーション!」

 それは、昨日シリカも気にしていたものだった。

 さすがにこんな至近距離で、二人もポーションを作れるような人材を見つけるとは思ってもみなかった(女性冒険者はそもそも作れるかどうかもわからない)が、それでも女性冒険者がそこまで知識があるのだとすれば、エレノアもはぐらかす気はなかった。

「簡単ですよ。解毒作用のある薬草に宿る、魔力を抽出するんです。エレメントのことはわかりますよね、魔法使いなんですから」

 エレメント。万物に宿る、それをそれ足らしめる魔力の性質のことである。

 たとえば人の魔力は、時間が経つにつれてその環境に順応していく性質に合わせて、速度こそ緩やかではあるが常に得意属性が変化する傾向にある。

 エレノアが今危険視しているサキュバスは、夢と色欲に深いかかわりがある魔族だ。だから、精神魔法や相手の精神を惑わす毒物(・・)に変化する魔力。そして種族特有の、『精神と夢』を操れるようになる性質も併せ持つ。

 そうした、魔力が特定の性質を持つという現象は、なにも生き物に限ったことではない。例えば止血効果のある野草には、治癒魔法をわずかながら増幅する魔力が。解毒作用のある野草には、解毒効果を付与する魔力がそれぞれ備わっている。

「そうやって、解毒作用のある薬草や薬剤から魔力を抽出して、それを自前の治療魔法の魔力に練り込んで定着させるんです」

「そ、そんな繊細なことができるの?」

「出来なきゃ店には並んでませんよ。ちなみに効果のほどは、『真実の眼』の保証付きです」

「そ、そのスキルは…………はぁ~、それなら本当なんでしょうね。でも、まさかあなたがそうだったとは、ねぇ……」

「ふふ、黙っているつもりではなかったのだけれどね。一応、厄介ごとではあるから」

「? ……なんの話だ?」

 傍らで聞いていたカイルには、剣を佩いている見た目からして見た目通り門外漢だったのだろう。訳が分からないなりに大人しく聞いていた彼だったが、最後のやり取りは本当に何のことだかさっぱり、と言いたげに女性冒険者に問いかけた。

 女性冒険者は、さぁね~、と適当にはぐらかしながら腰の小物入れから小さめの香水入れを取り出して、とりあえずとエレノアに再度向き直る。

「あなたがエリアミドルのポーションを作ってくれたことにはすごく感謝しているわ。おかげで私達、もっと上を目指せそうだもの!」

「エリアミドル、何気に使った後しんどそうにしてるもんな、いつも」

「そりゃあね。しんどいのなんのって」

 エリアミドルヒールは、聖女の祝福を受けたエレノアなど、一部の高位魔術に適性のあるモノでなければ扱いこなせない、専門的な魔法にギリギリ相当する。

 ゆえにミドルヒールスプレーも1瓶当たり10万ルメナという高い値が付いたのであるが――女性冒険者に言わせてみれば、それでもなお安かったようで。

「今まではエリアミドルヒールは2回使えればいいところだったのに、これがあればその個数分、魔力を節約できるんだもの。しかもたったの10万ルメナで! この辺りも、森の深部まで行けばエリアミドルヒールが使えないと厳しいし、上を目指すなら、買わないはずがないわ」

「え? 安いの、これで?」

「いえ。彼女の金銭感覚は余りあてにはしないほうがよろしいかと。それよりも、私も、今後は護衛として雇う方々を少しでも助けるために、仕入れに向かう際はここで一度ヒールポーションの用意を整えさせていただきたいと思っています。……さすがに、それくらいならできますよね?」

「え、えぇ……それくらい、なら……」

 パッセやカイル達が来たことで、ポーションを使用する当人たちの声を間近で聞く機会を得ることができたエレノアであったが――同時に、高額系のポーションは、さらに需要が高まるんだろうな、と少しだけうっそりとするのであった。


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