Venus smileを求めて:3
3/21 抜けた部分が判明したため、割り込み投稿いたしました。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。お詫び申し上げます。
そうして、特殊効果を込めたアクセサリ類を一通りそろえた翌日。
エレノアは、商業ギルドへと足を運び、アネットと個別での面談を求めた。
アネットは快くこれに応じ、エリスを伴って応接室へエレノアたちを案内した。
面談が始まると、最初に口を開いたのはエリスだった。
「エレノア様。この度は、ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした」
「あぁ、例の件ね。それについては、私は何も。お礼なら、アネットさんに言ってあげて」
エレノアは、そもそも今回の、エリスとサキュバスのリリアが入れ替わっていた件について、何も知らないままでいたのだ。
お礼を言われるようなことは何もしていないため、筋違いであると彼女のそれを慌てて辞した。
「そう、ですか……でも、あのまま私と入れ替わったサキュバスがエレノア様の許へ出向――いえ、潜入してしまえば、それこそどうなっていたことかわかりませんので…………」
確かに、それはその通りだけど、とエレノアは少し首を傾げた。
それでも、エレノアはシリカと教会で出くわし、そのままエレノアの店で近況報告をした。その際に、警戒心を強めたほうがいいという結論に至り、それ以降は来客があった際には『真実の眼』を使用して応対をするように心がけている。
とはいえ、来客と言っても今のところエレノアのもとに訪ねてくる来客など、たかが知れているのだが。
それに、いくら警戒心を強めていたところで、いずれサキュバス達はエレノアの許へたどり着くことはわかり切っている。
であれば、水際対策をいくら講じたところで、結局のところ時間稼ぎでしかないのだ。
根源を絶たない限りは、サキュバスはいつまでたっても、刺客としてエレノアの前に現れ続けることだろう。
「だから、まぁ、気にしないでも大丈夫よ」
「ですが――」
「まぁ、いざとなれば教会にでも逃げ込むわ。貴族のしがらみもなくなった今、シリカとも強固に連携を図ることができるでしょうしね」
『ツイント』でエレノアとシリカがなかなか連携できなかった(=共通ルートでしか両者をパーティに組み込めなかった)のも、大きな理由の一つとして、エレノアが抱える大貴族のしがらみがあったのだ。
それがなくなった今では、依然教会とのいざこざ(純潔性云々など)はあれど、追放前と比べれば幾分かましになっていることだろうと、エレノアは考えている。
「それは…………本当に、最終手段にしていただきたいところですけれどね。エレノア様のマジックポーション作成の技量は、我々としても逃しがたいものがありますから」
「えぇ。わかっているわ。だからこそ、そうならないための策を講じようとしているのだし。今日持ってきたこれとかね」
エレノアはそう言って、コーネリアに目配せをする。
視線を受けたコーネリアは、手に持っていたポーチから特殊効果を付与したアクセサリ類が入った布袋をテーブルの上に置いた。
ちなみに、アクセサリ類を包むものがないと気づき、慌ててコーネリアに調達を頼んだのは割とどうでもいい話である。
「これは――アネットが言っていた、サキュバス対策のアクセサリですね」
「えぇ。こっちは私の店に出向してきてくれる職員用。こっちに分けて置いたのは二人用に特別に用意したものだから、この場で受け取って」
「ふふ、ありがとうございます。わざわざ特別なものをご用意いただけるなんて……」
「アクセサリを買うお金があったら、豪勢な食事に使ってしまう物ね、普段なら」
アネットもエリスも、一時的ながらも破願してテーブルの上の、それぞれの前に置かれた小箱(女性スミスの店で購入した時に、持ち運び用にもらったものである)を手元に取り寄せ、蓋を開けた。
「わぁ…………素敵」
「綺麗な銀細工ですね。値段を聞くのが少し怖いです。エレノア様、無理をなさったのでは?」
「えぇ。これだけで5万はくだらないわ。でも、銀は魔よけの効果に期待ができるから、今は必要経費だと思うわ」
とりあえず、値段のことは気にするなと、今はサキュバスに狙われてもいいように対策を整えるのが先だと告げるエレノア。
アネット達は、それもそうですね、と言って、早速その場でアクセサリ類を身に着け始めた。
幸いだったのは、二人ともイヤリングをすでにしていたことだった。
そのため、手間取ることなく、割とスムーズにアクセサリ類の装着を終えて、話の再会をすることができた。
「付与されている効果はどのような感じなんですか?」
「基本的には、喫緊の課題であるサキュバス対策ね」
エレノアは、コーネリアにしたのと同じ説明を二人にも行う。
「サキュバス対策としては、多分それで十分なはず、何だけれど……」
「う~ん…………元、暗殺者系冒険者として言わせていただけるのであれば、ちょっとだけ、闇討ち対策が欲しいところではありますね」
「闇討ち対策…………」
寝込みを襲われた時にどうするのか、という話である。
一応、精神魔法耐性はあらかたの精神魔法を無効化できる程度のものを付与できているとしても、相手に気づかれずにことを成す手段は他にもある、とアネットは言う。
例えば、睡眠薬や睡眠ガスでも使えば相手をより深い眠りに誘うことができる。麻痺毒を併用すれば、例え眠りから覚めてしまっても、しばらくはされるがままになってしまうことだろう。
つまりは、不完全ということになる。
「『魔族特効』や『敵対相手威圧』も確かに有用ではありますが、戦闘慣れしていないエリスにとっては、むしろあっても邪魔なだけになるかと……」
「そう、ですね………………。一応、相手は聖女であらせられる、エレノア様と直接やり合うことになった時のために、必要最低限の戦闘訓練も受けていることでしょう。そしてエレノア様は、中退したとはいえ、王立学園で護身術を嗜んでいましたよね?」
「え、えぇ…………」
それ以外にも、シリカほどではないとはいえ、魔族が攻めてきたときに、矢面に立たされてもいいように少なからず戦闘訓練は受けてきたし、妃教育の中にも、少しだけ組み込まれていた。
具体的に、今のエレノアの力量は肉弾戦で武士達と渡り合える程度といったところだ。
しかし、それを基準に考えて作られたアクセサリ類は、平民という立場から見てみれば少しだけ不足しているアネットは言う。
「言われてみれば…………この国の貴族は、武士道を学ぶ一環として、武術に関しても教養の中に含まれていますからね。ならばこそ、元々冒険者であった頃の経験を生かせるアネット様はともかくとして、根っからの一般人であるエリス様としては、『魔族特効』と『敵対相手威圧』の特殊効果はあまり役に立たないわけですね」
「はい。……もし、これらのアクセサリの特殊効果を変えることが可能なのであれば、私としては敵から逃げるために役立つようなものが欲しいところです」
「なるほど…………別に、不可能というわけではないから、考えておくわ。ただ、とりあえずそれ以外のもの――指輪と、ベルト以外のモノについては、いずれもサキュバスが使うと思っている魔法に対する抵抗力を上げるためのものだから、そのまま身に着けておいてもらいたいわ」
「わかりました。…………あぁ、それと。実は、昨日の朝、目を覚ましたら気づかないうちにお腹の上にこんな宝石が乗っかっていまして……ちょっとだけ嫌な予感がしたので直接肌に触れないように慎重に取り扱っていたのですが、よかったら何かのお役に立たせてください」
そう言って、エリスが取り出したのは――コーネリアの呪いから抽出した淫魔石には比べるまでもないほど低品質な淫魔石だった。
ただ、今はそれらも対サキュバス用の装備を整えるのに役立つ者だったので、エレノアは喜んでそれを受け取った。
「あ、それなら私もお礼をしなくてはなりませんね。とりあえず、サキュバス対策のためにアクセサリ類を用立てしてくれるとのことでしたので、こちらからは護身用に使えそうなものを用立てさせていただきました」
そう言って、アネットが取り出したのは二つの短剣。
それらは、『ツイント』においてエレノアルートのラスボスという異名をほしいままにした『ナイトメアサキュバス』が、バトル中に手に持っていたものとそっくりだった。
エレノアは、それらを『真実の眼』で確認する。
「『セイントダガー』に『破魔のナイフ』…………どちらも、罪人と魔族に対して特効効果あり、ね。なるほど……」
セイントダガーは、教会で祝福を受けたミスリル銀をもとに作られたもので、特殊効果は『罪人特効』と『魔族特効+』。特に魔族に対しては絶大な効果を有すると出ている。
破魔のナイフも似たようなものだが、こちらは魔族特効に『+』がついていないので、セイントダガーのように魔族に対して絶大な効果を有する、というわけではないようである。
「もらってしまってもいいのですか?」
「えぇ。そちらは、予備の予備。本命とその予備は別にとってありますので」
特に気にするでもなくそう言っているアネットを見て、それじゃあ遠慮する方が悪いかな、とエレノアはありがたくそれをもらうことにした。
聖女としての権能、『罪人特効』『魔族特効』が常時機能しているエレノアにとっては、それはまさに鬼に金棒であった。




