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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
ハジマリのChastity belt
20/66

首狩りアネットのCounter assassinate:4


 シリカは、その日はそのまま教会へと帰ることとなり、彼女にポーション作りの手ほどきをすることになったエレノアは、まさか自分がシリカにあれこれ教えることになろうとはね、と思いながらコーネリアと一緒に後片付けをした。

「お嬢様、何度も言うようにこうした雑事は私にお任せください」

「却下。平民になったんですもの、可能な限りのことは自分でもやるようにしないと。おんぶにだっこ、というのはもうダメよ」

「………………、」

 わかってもらえない、と言わんばかりに苦悩のため息を漏らすコーネリアを無視して、エレノアはキッチンへと赴き、先ほどまで使用していた食器類を洗浄した。

 もともとのエレノアも意外ながら、ポーション作りが得意とあって、こうした洗い物に関しては自ら率先して取り組んでいたようであったし、今さらではないかと彼女は思っているのだが――その思いがコーネリアに伝わったことは、元々のエレノア時代から今日この日までを通して、ほどんどなかった。

 洗い物をしていると、諦めたような表情のまま、コーネリアが並んで作業に加わる。

 エレノアは、若干気まずい気分のまま彼女の顔を覗き込んだ。

 コーネリアは、半ば仕方がない、と本当に諦めているのか、もう素面の状態に戻っていたが――元公爵家令嬢付きのメイドという立場ゆえに、ポーカーフェイスはお手の物。内面でどう思っているかなど、わかるはずもなかった。

「――お嬢様は」洗い終わる直前になって、やっとコーネリアは口を開いた。

 その口調は、どこか探るような感じだ。

「先ほどのシリカ様のお話、どう思われていますか?」

「どう、とは……?」

「彼女が持ち込んだ、淫魔石のことです」

 コーネリアは、すでに気持ちを切り替えていたのだ。そのあたりはさすがと言うべきだろうか。

 彼女は先のやり取りで関係がこじれなかったことにほっとしつつも、彼女の問いかけの意図を逆に探った。

 彼女にとっては、すでにその問いかけに対する答えはおおよそ決まっているようなものであった。

 あれは、すでに王都に敵勢力が入り込んでおり、それもおそらくは陥落寸前といっても過言ではないほどに深部まで食い込んでいる。

 繰り返しになるが、エレノアの母が入れ替わっていたことに、元々のエレノア自身気づいてすらいなかったのだが――その立場にまで敵が入り込んでいるということは、他にも国の上層部の主だった面子の中に、サキュバス族の手勢が忍び込んでいると考えてもいい状況である。

 現に『ツイント』でのエレノアルートでは、共通して『王城に宿泊したところ、夜間に魔族らしき気配を感じたエレノア。それを探ったところ、高官に従事している貴族に化けたサキュバスを発見した』というイベントから、エレノアの家――レーペンシュルク家とサキュバスにまつわる事件が幕を開けるのだから。

 そしてそれはシリカルートでも似たようなルートが一つだけ存在し、そのルートではシリカルートにしては珍しく、中盤の前半あたりでレーペンシュルク王都邸・本邸の二つを攻略することになる。

 そのルートでもやはり、エレノアの追放にまつわる裏事情こそ語られないものの、エレノアをめぐる何かしらの策謀があったのだ、と結論付けるに至り、そこでエレノア追放の裏にもその策謀の意図が張り巡らされていたことが表沙汰にされるのだ。

「あなたのことがあるし、シリカが持ち込んだ淫魔石の出どころは聞きそびれたけど……間違いなく、相手は――サキュバスは、この国の深部に食い込んでいる。これは確かよ。シリカとは、連携を密にとっていきたい、とは思ってる」

「ですが…………今の私達では、王城に入ることはもちろん、貴族を訪問することすら難しい立場にあります」

「えぇ……そうね…………」

 そこが痛いところだ、とエレノアは少し難しそうな顔をする。

 サキュバスの策謀の中には、おそらくそのことも盛り込まれていたのだろう、と彼女はふと思い至り、そうだとすれば本当に計略においてサキュバスの右に並ぶものはないな、とうっそりとするエレノア。

 コーネリアは、そんなエレノアを心配そうに見るのであった。

 そうして、食器を片付け終わったエレノアは、店の売り場スペースの窓から外を見やり、ポツリ、と一言こぼす。

「それにしても……アネット、遅いわね……」

 本日、エレノアはアネット、エリスの二人とプライベートで会う予定を組んでいた。

 場所はここ、エレノアの店である。

 彼女は教会に行く前にもそんなことをコーネリアに話してから出かけたが――ついぞ約束の時間が過ぎ、今に至るまで彼女たちは一向に姿を現そうとしない。

 シリカを連れて帰ってきたことに関しては、約束の時間になって、アネットたちが来たとしても、事情を話してシリカもアネットたちとの話に巻き込んでしまおうかな、などと考えていたのだが……その彼女の考えが、実現することはなかった。

「先ほどの話もありますし……少し、心配ですね…………」

 エレノアの言葉に、コーネリアも同意するように言葉を引き継ぐ。

 彼女の顔にも、不安の色が濃く表れていた。


 アネットがエレノアのもとに訪れたのは、それからかなり時間が経ち、夜が更けたころだった。

 魔道具の光に照らされながら、そこそこ回復した魔力でポーションを作っていた時、。

 そろそろ寝ないとかな、と思った頃に自室のドアがノックされ、コーネリアが来客を伝えてきたのだ。

 その誰何を確認し、アネットであることを聞いたエレノアは、こんな時間に来るなどただ事ではないなと判断。

 最低限の警戒心を忘れずに、しかし急ぎ足で玄関へと向かった。

 そして、玄関扉を開ける前に『真実の眼』を発動し、それから扉を開け放つ。

 果たして、玄関扉の向こう側にいたのは、アネット本人であった。

 少なくとも、『真実の眼』にはアネット本人である、と映し出されており、ひとまずエレノアは安心する。

「夜分遅くの訪問、並びに本日昼間の約束を違えてしまったこと。誠に申し訳ございませんでした。この埋め合わせはきちんとさせていただきます」

「いえ。急な予定の変更など、よくあることです。気にはしません」

「そうですか……そう言っていただけると幸いです」

 言いながら、アネットは中に入ってもいいかどうかを確認してくる。

 もちろん、断る理由などなく、むしろアネットからなぜこんな時間に訪ねてきたのか、その真意を聞きたいエレノアは一つ返事でこれを了承し、応接室へと彼女を案内した。

 また、コーネリアには念のために客間として用意しておいてあった三つ目の寝室を整えておいてもらうように申し付ける。

「夜に女性一人で歩かせるのは危険ですから。アネットさんがよろしければ、泊まっていってください」

「えぇ、お気づかいありがとうございます。話も長くなると思うので、お言葉に甘えさせていただきます」

 訳:緊急性の高い話があるので覚悟しておいてください、と言ったところだろうか。と、エレノアは、ごくりと息を飲むのであった。

「まず、私は本日、エリスとともにここを訪れ、エレノア様と開店後の展望について話し合う予定でスケジュールを組んでいました」

「えぇ。そうね。私も、そのように記憶をしているわ。でも、結局来なかった。いえ、話の内容を察するに、来れなかった、と言うべきかしら」

「はい。来れなかったことについては、本当に申し訳がございません。来ると言っておきながら無断キャンセルなんて、商業ギルドの職員としても大失態です」

「あぁ、気にしないでいいよ。誰にだって、そうなることは多々あるし、アネットさんのそれは、本当に何を差し置いても優先しないといけないことができてしまったんでしょ?」

 エレノアとて確信があるわけではない。ただ、とがらない言い方をしようとしたらそうなってしまっただけである。

 が、アネットはそうは思わなかったようで、先ほどに続いて再びほっとしたような表情になった。

 しかし、アネットがほっとしたのは一瞬だけであり、状況は極めて悪いと言いたいのか、即座に真剣みのある表情に戻っていった。

「問題が起きたのは、私が支度を終えて、エリスとの待ち合わせ場所に移動したとき。ちょうど、待ち合わせ場所に着いた時のことでした」

 アネットは、その時の状況を、事細かにエレノアに語った。

 エリスと待ち合わせしていたら、二日~三日前に会ったばかりのエリスは、まるで別人のような雰囲気を纏っていたこと。

 うまくごまかしているが、特に目元など、いくつか違和感しかない箇所が散見され、そのことからその待ち合わせ場所でアネットを待っていた『エリス』はどこかからの間者である可能性があるということ。

 さらに、この時期にエリスに入れ替わったということは、エレノアを狙っての計画的なものである可能性が否定できないということ。

 それらをアネットは、コーネリアの準備した紅茶で時々口を湿らしながら、丁寧にエレノアに伝えた。




 少し遡って、日が暮れた直後の時間帯。

 サキュバス族の密偵の一人、仲間からはリリアと呼ばれるサキュバス族の少女は暗闇の中で目を覚ました。

 いきなりのことに頭が混乱し、状況を整理するためにとりあえず上体を起こそうとして体を動かした。

 ――しかし、いざ起き上がろうとしたところで腕を動かすことができなかった。それにより、自身が拘束されて床に転がされていることに気づいた。

 その事実に彼女は焦りを感じ、周囲に視線を走らせて状況を簡単に把握しようと努める。

 視界に入ってきたのは、木造の小屋のような内装の部屋。建付けが悪いのか、はたまた掘立小屋なのか。一押しすれば瞬く間に倒壊してしまいそうな外見の壁に、汗と、垢と、その他人間の日ごろの汚れを放置し続けたような匂いがいくつも混じった異臭。

 それらの情報から、彼女はここがスラムのどこかだと結論付けた。

(…………なんなの、これ。なんで……怖い。何が起こったの……?)

 街中で人を待っていたと思ったら、気が付いたらどこかに監禁されていた。

 その事実に、魔族とはいえまだ少女の域を出ない彼女は、恐怖心からいよいよ頭が混乱し始める。

 ――リリアはサキュバス族の対聖女用暗部組織の構成員の一人であり、与えられた任務はエレノアの店に出向する商業ギルド職員の一人と入れ替わり、彼女の身近な場所で更なる情報収集をすることであった。

 だが――気が付いたら、暗い部屋(と思われ場所)に閉じ込められる形で囚われの身となってしまっていた。

 自らの正体も察せられることもなく、ただ相手の記憶に残らないような動きをして意識を落とし、どこへなりと連れ去る。

 正体もわからぬ敵のその手際の良さに、リリアは恐怖しか沸かなかった。なにせ、気配すら察することができなかったのだ。

 対聖女用暗部組織の構成員として、気配の察知能力は常に鋭敏になる様に訓練されているし、逆に自身の気配の操り方も、どのような人と入れ替わっても違和感を持たれないように体に叩き込まれている。

 しかし、敵はそんな日々の厳しい訓練に必死になって取り組んできたリリアを、察せられることもなく気絶させて連れ去ることに成功したのだ。

(――相手の格が、違い過ぎる…………いったい、どんな奴に捕まったというの……?)

 リリアは、もはやその正体もわからぬ誰かに畏怖の念しか抱けなかった。

 とりあえず、彼女はまず起き上がって部屋の中を探ってみることにする。今置かれた状況が何もわからないままでは行動の起こし方すら定まらないからだ。

 そのために、まずは自身の身体を起そうとして、――しかし、それがかなうことはなかった。

 なぜなら、彼女の手足は拘束されていたからだ。

 しかも、最悪なことに――

(うそ。魔法を、封じられている……? そんな。これじゃあ最悪の状況じゃない)

 魔法の仕様を、一切封じられていたのだ。

 今の彼女にとって、それはとてもまずい状態だった。

 なぜなら――

「目が覚めたかしら」

「…………っ!?」

 不意を突かれる形で、掛けられた声。

 その声を聴いた彼女は、それが誰であるかを瞬時に頭の中で考え、そして答えを導き出す。

 ターゲットと入れ替わる前に、入れ替わった後のために入念に監視し、調査し続けたターゲットの身辺調査。

 その中にあった、知人友人の情報に、その声の主は確かに存在していた。

 その声の主。彼女は、確か、そう――

「アネット、何の冗談? まったく笑えないのだけれど。早くほどいて」

 記憶の中から引き出したその名を呼び、声の主に縄をほどくように要請した。

 もしかしたら、自身を助けに来てくれたのかもしれない。そんな甘い考えはリリアにはできなかった。

 アネットの纏う気配が、それを否定していたからだ。

 アネットのそれはまさしく、自分と同類――陰に生きるもののそれだった。それも、似て非なる者の存在だ。

 そして、だからこそどうして、と思う。

(どうして……? アネットがあんな気配を纏っているなんて……まるで、暗殺者のそれじゃない。私が、私達が調べた情報の中に、彼女がそうであるという情報はなかったはずよ。一体どうして……?)

 当り前だ。アネットが冒険者として活動していたのは、12歳から17歳まで。

 12歳から冒険者として活動を開始した理由は別の話にするとして、7年も前のことなのだ。商業ギルドのアネットと、冒険者の『首狩りアネット』とを結びつけるには、彼女と直接の関りがなければ少々難し話なのだから。

 そして彼女たちサキュバスが、商業ギルドを策謀の渦に取り込もうとし始めたのは、エレノアの後をつけるようにしてのことだった。

 それまでは、ノーマークも同然だったのだ。

 だからこそアネットと『首狩りアネット』が結びつかなかった。

 ゆえにリリアは、アネットがこうしたこと(・・・・・・)について経験豊富であるとはわからず、ますます頭の中がこんがらがった。

 まさか――いや、そんなはずはない。入れ替わりは夢魔法も用いた完璧なもののはず。たかだか商業ギルドの職員風情に自身の入れ替わりが見抜かれるはずがない。

 そう信じて、努めて『エリス』としてリリアはアネットに『お願い』をしたのだが――当のアネットは、まるで物を見るような目つきで冷たく嗤い、器用にナイフでジャグリングのようなものをしながらリリアの願いを黙殺した。

「ねぇ、アネット、聞いているの? …………ねぇってば――ひっ!?」

 そして、ついにはエリスの真似事(・・・)をやめようとしないリリアに、苛立ちを隠しきれなくなったかのようにジャグリングしていたナイフの一つをリリアに向けて投擲。

「あああああっ!」

 その投擲も、熟達したものを感じられるもので、リリアは存外に鋭く入ったナイフの一撃に、悲鳴を上げざるを得ない。それほどまでに、見事なナイフ捌きだった。

「ねぇ。もし可能ならば(・・・・・)、そろそろエリスを『返して』もらえないかしら。もう、あなたが『エリス』じゃない、ってわかっているのよ? 目元とか、普通の人にはわからないけど――全く別人じゃない」

 アネットの言葉に、リリアはもう絶望しかしなかった。

 なぜならアネットのそれは、まぎれもなく『断定』だったからだ。

 ――あなたは別人。エリスじゃない。だから本人を返して。さもなければ…………。

 それは、最後通牒だった。音無き最後通牒。あえてそう明言しないことで、逆にそれを強調させている。そうであると、信じざるを得ない。疑う余地がない。

 だって、アネットの目がそう言っているから。

 エリスに化けているリリアには生きられる可能性が、ない。

 たとえリリアがエリスを返さなかった(・・・・・・)としても、アネットは容赦なくリリアを殺すだろう。

 それに、自身を拘束している道具には、何か魔法的な仕掛けが施されているようで、思うように魔法が使えなかった。

 だから、アネットが拘束を(・・・)解きたくなる(・・・・・・)ように精神を誘導することもできず、また魔法が使えないということは入れ替わりに使用している『魔法』もいずれ解ける時が来てしまうということ。

 そうなれば――もう、隠れることもできないだろう。この手の輩は、ターゲットに特殊なマーキングを施すことで、討ち漏らしを防ぐのだから。

 リリアは、もう錯乱状態になりつつある思考の片隅で、打開できる手があるかどうかを必死で探ったが――答えは、見つからなかった。


 ――こうして、エリスと入れ替わっていたサキュバスは、アネットという反則級の暗殺者(・・・)によって討伐され、エリスは暴漢に連れ去られたというカバーストーリーの元、警備隊に保護されたのであった。


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