表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
ハジマリのChastity belt
15/66

お店の準備、Get ready:2


 その後、改めて商業ギルドに向かおうとして再びフロントに行けば、今度は商業ギルドからの来客があった。

「あ、アネットさん。どうもお世話になっております」

「エレノア様、昨日はお越しいただきありがとうございました。コーネリアの調子はその後、いかがでしたでしょうか」

 その、呪いの件についてなのですが、とアネットから付け足されて、エレノアは商業ギルドも一応はコーネリアの呪いのことについては確認をしていたのだろうな、と把握した。

「それなら問題はありませんでした。一応、リバイバルポーションを作れる程度には嗜み(・・)がありますので」

「そうなのですね…………。まぁ、コーネリアと旧知の仲であったことと、どう見ても古くからの主従関係にあったような雰囲気からして事情はお察しいたしますが……」

「あはは……ありがとうございます」

 エレノアのそれは、深く聞き入ってこないことについての感謝であった。

 もともとのエレノアのことであり、今のエレノアにとっては他人事のようなものではあるのだが、一応は自分のことに違いはないので、ことあるごとに踏み込まれるのもあまりいい気にはなれないのである。

「それで、本日参りました理由についてなのですが、昨日の今日になりますが早くもエレノア様のお店に派遣する予定の人員が決まりましたので、そのご案内に来ました」

「え? っと、早くないですか、それ」

「はい。そうなんですが…………エレノア様が昨日お持ちになりましたサンプル品があまりにも魅力的――もとい、秀逸なものだったので、可能な限りのサポートを、という話になりまして……」

「それで昨日のうちに取り決めてしまったと…………」

「はい。商人は拙速を尊ぶもの。常に機を見るに敏を地で行くことが求められるものですので」

 だからと言って速すぎるような気がしないでもないが、という突っ込みは飲み込むことにしたエレノアだった。

「それで、可能であればすぐにでももう開店届を出すことも可能ですが……」

「残念ながら、まだ店舗を用意していませんので」

 そもそも、店舗を用意済みであればすでに宿など引き払っているのだけれど、とエレノアは心の中でそうひとりごちた。

 エレノアの返答を聞いたアネットは、それはまずいという顔になって、今すぐ商業ギルドに行きましょうとエレノアの手を引っ張りながらギルドへの同行を促す。

 エレノアとしてもギルドで店舗用の建物を見繕ってもらおうかなと考えていたところだったので是非もなし、と言った感じであった。

 商業ギルドへ到着すると、そのままアネットに昨日と同じ応接室へと案内されて、少々お待ちください、とソファを勧められる。

 本日はコーネリアも自身の隣に座らせる形でそれに従い、お茶を用意しに退室するアネットを見送った。

 しばらくして戻ってきたアネットは、後ろに女性職員をもう一人、連れてきた。彼女はなにやら分厚い資料を抱えており、アネットはその資料が机に置かれるのを待ってからお茶をエレノアに差し出した。

「エレノア様、こちらは私の同僚で、エリスと言います。普段は当ギルドで財務手続きを担っておりますが、エレノア様が開店なさってからは一週目の監視員の一人として、私とともに出向する予定となっております。今回は、顔合わせと、本人がエレノア様の実際の人となりを知っておきたいとのことでしたので同伴することとなりました」

「私はエリスと申します。監視員として出向させていただくのは最初の一週のみとなりますが、財務関連でわからないことがございましたらお気兼ねなくご相談くださいませ」

「エレノアです。なにぶん、こういったことは初めてなものでして、盛大にご迷惑をおかけすることになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

「いえ。ご心配はなさらずとも大丈夫です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 初対面となるエリスとあいさつを交わし、それとなく人となりを観察したエレノアは、その相貌にどことなくクールでちょっと厳格そうな雰囲気を感じた。


「それではエレノア様。準備が整いましたので、エレノア様がお持ちになる店舗について考えていきましょう」

 エレノアたちの自己紹介が済むとアネットは手元に羊皮紙と筆記用具を用意して、早速と言わんばかりにエレノアに希望する店舗の条件を確認し始めた。

「エレノア様が取り扱う商材は、ポーションとマジックポーションでよろしかったでしょうか」

「そうですね。あとは……場合によっては、もう少し商材が増えるかもしれませんが」

「と言いますと?」

 エレノアの言葉に食いついたのは、アネットではなくエリスであった。

 エレノアは、付加魔法でマジックポーションのほかにも、こまごまとした生活用品をお店で売れないかな、と考え始めていることをアネットたちに打ち明けた。

「予想はしていたことですが、やはりエレノア様は治療魔法や神聖魔法以外にも様々な魔法をお使いになられるのですね」

「まぁ、多くは素材の魔力を注ぎ込んでのごり押しによるところが多くなるかもしれませんけどね」

 エレノアはまだ自身のスペックについてはそれほど確認できているわけではない。

 だから、答えはすべて『ツイント』基準のそれなのだが、エリスはなるほどと頷いて、それであれば素材の仕入れに関しては商業ギルドで行うか、冒険者ギルドで依頼を出すかのどちらかを勧めると推奨された。

 一応、それ以外の入手手段もないわけではないのだが、必ずしも良い品質のものが手に入るとは限らなかったり、そもそも詐欺にあって思うようにいかなかったりするのであまりおすすめはできない、と彼女は語る。

 エレノアも元々そうするつもりで致し、最悪、店が自分抜きでもある程度回る様になったら、その時は自分で素材を取りに行くことも考えている、とエレノアがいえば、それは絶対によしてほしいとその場にいる全員から止められたため、エレノアに残されたのは最終的にその二択のみとなった。

「では再確認いたします。エレノア様が扱う商材はポーションとマジックポーションのほか、一部生活用の魔道具ですね。後者はまだ可能性の範囲内ですが」

「はい。間違いありません」

「では、その方向で考えるとして……売り場の規模はどの程度を考えていますか?」

「う~ん……よくはわからないです、けど…………」

 エレノアは、元の世界における少し小さめのコンビニエンスストアをイメージして、大体これくらいといった答えを返す。

 アネットはなるほど、と用意した紙にその内容をメモしていく。

 それから様々な条件に関して話し合いが行われた。

 店舗スペースのほか、エレノア自身がポーションやそのほか雑貨などを作るため、作業スペースが必要となること。

 商品の詳しい説明などを求められた際に、個別の応対スペースが欲しいこと。

 さらに、最重要事項として店舗と住居を兼用としたいこと。これは割とよくあることなので、一つ返事で条件の一つとして受け入れられた。

 ただその後の、主に居住スペース関連の条件でかなり難航したが。

「居住スペースについては寝室、ダイニングや炊事場などはもちろんとして、入浴設備――それも、蒸し風呂のようなものではなく、湯船の付いた風呂ですか……これはまた難儀な…………」

「やはり、難しいですか…………少しでも、お嬢様には不自由ない生活を送っていただきたいと思っているのですが……」

「そうですね。コーネリアも、ほんの数日の間とはいえ不自由な生活を過ごしたからわかるかもしれませんが、本来風呂付の家屋と言うのは裕福な家庭にのみ許された特権でもありますから、そうやすやすと用意できるようなものでもありません。もし、それでもと言うのであれば用意は致しますが……改築工事が必要になる場合もありますからあまりおすすめはできませんね」

 主に金銭的な制約と時間的制約に引っかかる恐れがあると言われて、エレノアはなるほど、と頷き、コーネリアはうーんと唸った。

 やはり、エレノアの側付きだったコーネリアとしては、エレノアが毎日風呂に入れず不衛生な状況になるのが少々気に入らないようだ。

 今も、止まっている宿では毎晩湯桶をもらって体をぬぐっているだけであり、毎日風呂に入って清潔さを保っていたお嬢様時代のエレノアを知っているコーネリアからすれば、ゆゆしき事態なのだろう。

 エレノアとしても、毎日風呂に入れないというのは少し落ち着かないものがあるのだが――異世界なのだから今さらか、とすでに諦めの境地にあるので、コーネリアほどではなかった。

 それに、浄化魔法で身体を身綺麗にすることは十二分に可能なので、必ずしも必要とするわけでもない。ゆえにエレノアとしては、あればいいなと思う程度であった。

 ともあれ、お互いの間に温度差を感じたエレノアは、とりあえずの妥協点を模索し始めた。

(私は現状では半ばあきらめているとはいえ、やっぱり風呂には入りたい。これは事実よね)

 エレノアが思い出した前世の記憶によれば、前世の自分は純然たる日本人である。元男性の精神が、エレノアに宿って女性になったとはいえ――いや、だからこそ、風呂に入れていないという現状を改めて認識して、風呂に入れるなら入りたいな、という欲求がふつふつと浮かんでくる。

 そして、それはコーネリアの思っていることにも通じるものがあった。

(私は風呂に入れるなら入りたい。コーネリアにも入ってもらいたい。コーネリアは、私にぜひとも風呂に入ってもらいたい。コーネリア自身は……わかんないから後回しでいいかな)

 そうなると、メンタルケアという意味合いでも風呂はやっぱりここで強く要求しておいた方がよさそうだと判断した。

「……やはり、風呂は条件から外すことはできそうにないです。ただ、あればいい、程度のものなので、例えば等身大の樽を湯船代わりにしたような、そんなものでも問題はないです」

「お嬢様っ!?」

「コーネリア」

 ただし、その中でもやはり、妥協できるところはすることにしたが。

 貴族ではなくなったのだから、それができる設備があるだけでも十分に贅沢なのだ。それ以上のことは、現状では望んではいないエレノアだった。

 コーネリアは当然のごとくこれに反発したが、エレノアがこれを視線で射抜き、黙殺した。

「そうですか。…………わかりました。その条件で、ちょっと探してみますね。ちなみにですが、最後にご予算がどれくらい準備できているかをお聞かせ願えませんか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 そういえば肝心の予算のことは聞かれてなかったな、と思いながらエレノアは自身が立てた予算を思い返した。

 エレノアは薬屋を開こうかと考え始めた当初から予算について計画を立てており、その予算については今に至るまでほとんど変更していなかった。

 まず、女性スミスと取引して得たお金は200万。言い換えれば、すぐに用意できるお金は、アネットからの問いかけに対する答えの最大金額はそれからこれまでに消費した金額になる。

 その中で、初期投資として充てようと考えていた予算は140万ルメナほどであった。

 これには建物ももちろん含まれるが、材料費や加工費、最初期の販売管理費などももちろん含まれる。

 これとは別に生活資金として10万ルメナを組んでおり、これを差し引くと残りの資金は50万ルメナ。

 エレノアは、その残りの50万ルメナは非常時や何かほかにやりたいこと、欲しいものができた時のために、積立金として残しておくことにしている。

 ちなみに、生活資金10万ルメナは宿屋の一室を間借りして生活している現状から見ても、生活費は当面気にしなくても済む金額である。

 具体的な比較対象を用意しよう。王都在住の(主に月に二~三回贅沢な一日を過ごせる層の)平民が一か月生活するのにかかる費用は、何事もなければ贅沢品も含めておおよそ3000ルメナほどである。

 異様に生活費が低いようにも思われるが、けがや病気などにかかるなどしたりすればプラスアルファで出費は増えるし、娯楽などはこれには含まれていない。

 あとは価値観の違いによる、としか説明のしようがないだろう。

 とかく、エレノアは事業用の純資産として充てる予定の資産から材料費、加工費、販管費などの初期投資予算を大雑把に見積もってエリスの問いに答えた。

「大体、100万ルメナといったところかしらね。積立金を含めればあと50万くらいはいきそうだけど、そっちは別に何か困ったことが発生した時のために取っておきたいし……あと、生活費は別枠で10万確保してあるから問題ないわ」

「計画的に予算を決められているようで何よりです。少し、安心いたしました」

 エリスが言うには、起業しようと考えている新米商人の中には、金銭感覚がまだつかみ切れておらず、そのまま借金地獄へとはまっていってしまう人も少なくはないという。

 それから比べればはるかに信用できると彼女はエレノアに説明した。

「まぁ、エリスはエレノア様がお持ちの価値観……、人となり聞いた時に、少し不安がっていましたから。」

「あはは…………」

 そして、アネットの暴露を聞いて、何も言い返せずに頬を掻くしかできないエレノアであった。

 アネットは、コホン、とわざとらしく咳払いをしてから、

「ひとまず、具体的な条件とご予算をお聞きいたしましたので、ただいまからエレノア様のご期待に副えるような物件――の、資料を探させていただきます。少々、お時間をください。エリス、半分手伝って」

「わかったわ。……それでは、少々お待ちください」

 とエリスに呼び掛けて分厚い資料の束を半分に分けると、二人して手早く検索していった。

 ――そして、彼女ら二人の尽力もあり、風呂付というこの世界ではかなり難しい条件の中、数件の候補を見出すことに成功。

 最終的に、数日後にはアネットの案内の元、これから先の自分の住居ともなる店舗候補を見学したうえで、その候補の中から選んで購入することになった。



新キャラは不憫系苦労人キャラです。

この後何かと事件に巻き込まれる……予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ