005
師匠達のと別れが脳裏に過ぎる、すると霧深い森の中へ入り込み忽然と姿が消えた師匠達を思い出した。
置いてかないで! 消えないで! 一人にしないで!
頭の中はそんな弱く軟弱な言葉が溢れすぎる、その度に心臓が締め付けられる様に痛み苦しくなる
朝を迎え、獲物を早急に捕らえ、捌き、焼いた肉へ加工してから直ぐに教えられた方向へ走る、馬車を引く馬に乗った人間が話しかけてくるが無視し、ただひたすらに走る。
胸の痛みが消えない、夜になり静かな暗闇に耳を傾けると胸がざわめき自分の声が聴こえる、自分の泣く声が喚く声が、掻き消したくとも耳に響くそれを消す為に寝ることを惜しみながらも走った。
疲れれば肉を齧り、残った骨を噛み砕き、息が煩くなる程切れ渇けば水を生成し飲み、地面に座り師匠が言っていた観測者たる星々を眺める。
黒と青が混じり濃紫に見える空が星々によってキラキラと輝き幻想的にすら思える。
『旅に迷ったらあの星の者を見よ、あの者がお前を導く』
ふと、師匠の言葉が蘇った。
師匠は自分を『堕ちた観測者』と言った、新しい生命を望み自分達の生命を使いぶつかり合い混ざり合った、星々の融合体がこの『惑星』だと師匠は言った。 師匠はその惑星に頼まれて星として堕ち、生命を芽吹かせるキッカケを作ったと言う。
岩と霧と森と海だけだった惑星に熱が生まれ、他の星に請い、光が届き四足獣が生まれその死骸を取り込む為に空気が生まれエーテルが生まれ死骸は長い年月をかけ土になり緑が芽生え原初の『人間』が生まれた、そしてエーテルからは『魔族』が生まれ、人間と魔族は交じり合い色々な生物が産まれたと言う。
なのに人間と魔族は争いを始めそこに獣人やら多種族まで争い始めたそうだ、それを嘆いた原初の人間と魔族は産み出した子供達にこう言った。
『どちらかの人間か魔族が勝てば喧嘩はやめなさい』と言ったそうだ。
だが、欲望に染まった人間は色んなモノを主張し自分のものとしたそうだ、それを魔族達は不思議がったが、その場所や物に触れた子供の魔族を人間が殺し、魔族達は憤り「人間はなんで子供のする事に寛容にならないのか」と物申したが、人間は聞く耳を持たず「魔族達が知恵を働かせて奪う様に言ったのではないのか」と言いがかりをつけ、その波紋は徐々に広がり、魔族を捕まえ獣だと宣い殺し、研究しだし魔族達は外見が違うだけでこもう我慢をしなくてはいけないのかと限界を突破した者達が己に備わった『能力』を発揮し人間を攻撃し、圧倒してしまった。
人間は魔族達を野蛮や化外など口々に罵り数の力と原初の人間と魔族から産まれた『力』で持って殺し合いを始めてしまった。
魔族達は身体は見た目は違えど同じ繋がりを感知出来る機関とその見た目相応に備わった個々の発達した『能力』が
人間は原初の人間の見た目である程度は統一され、まぞく達に劣る身体機能を持ちながらエーテルを『魔法』や『魔術』として加工し使えたり、武器を持って攻撃してきたりと多彩な『能力』が
皆、違えど備わっているのに自分とは違うと妬み、僻みから発生したこの戦争と言うより、差別によりこんなに世界はややこしくなったと師匠は語りながら他の師匠達と涙を流しながら嗚咽を漏らしていた。
『どうしてこうなったんだろうな』
師匠達はお酒を飲み悪い事を忘れようとしてポロリとよく漏らしていた
自分はその度に、『個性って悪い事なのか?』と聞いていた程だ。
ある師匠はその言葉で泣き抱きしめてくれた
ある師匠はその言葉を否定してくれた
ある師匠はそれはとても良い事だよと答えてくれた
ある師匠はその言葉で大声で笑った
師匠達はとても良い事だと肯定してくれていた
それは授けたモノなのだから当たり前なのだと師匠は言った、そしてそれを誇って欲しかったとも。
夜空を見るといつも思い出す、師匠達と焚き火を囲んで夜空を眺めながら語っていた事を。
俺の大切な思い出を
また皆んなで一緒に眺めたいなと思ってしまった。
そんな事を思いながら意識が沈み、過酷な修行をした時の感覚が身体を襲い、動けなくなった。
まるで岩になったかの様に瞼を閉じてしまった。