004 孤毒【こどく】
あぁ、これは夢だと分かる夢を見ている。
けど、何処かで聞いた事がある様にも思える、もしかしたら記憶の断片なのだろうか?
昏く水が満ちている場所から声が聴こえる。
「なぁ、本当に影を使わんのか、この子はどうなる! 親を知らない、親の腕の温かさも安心感も父親の背中の偉大さも知らずに育つのだぞ! 貴様はそれでも良いのか! ジェフリー!!」
聴き覚えのある女性の怒声が響く、だが、ジェフリーと呼ばれた者の返答は明らかに冷静で何かを悟っている様だった。
「あぁ、我らは親を知らぬだからどうすれば良いのか解らぬ、だが、これだけは解るのだ! 子供を新しい生命を此処で消してはならぬと訴えているのだ! 『勇者』達は必ず皆殺しにする筈だ! 我らは『人でなし』だからな! 神が定めた理を変えようとした旗頭が死ぬまで止まらぬ!」
何処までも冷静で声に怒りが入っていなくとも、感じるのは、神への怨念と同族への思念。 最期は城でただ独り玉座で待ち構え、己らを殺戮する為に神から遣わされた『人間』達、勇者 その者達への最期の抵抗と次を『託した』部下、それらをごちゃごちゃになるまで考え抜いたが故に魔族達を人が行ぬ地へ旅立たせ、迎え討つ『魔王』としての責務
そして、まだ生まれぬ我が子への想いを秘めて護衛と身重な妻への罪悪感を内側に秘めたまま
そこで目が醒めた、そして視界は歪み、頭の中はぐちゃぐちゃ、叫びたい気持ち、泣きたい気持ち、引き留めたい気持ち、こんなので一杯で整理が追い付かず、喉は痙攣し目からは止めどなく涙が溢れ止まらない、胸が潰れるかの様に締め付けられ痛い、誰かに包み込んで欲しいと思いながら身体が震え、怖くなった。
そして、考えが決まった、寄り道をしないでひたすら『師匠』達に会いたい、この胸の痛みを止めて欲しい、空っぽな胸を埋めて欲しい。
そんな想いに駆り立てられ、木の葉と蔓を纏めた縄で出来たハンモックから降りてひたすらに言われた方角へ走った。