表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歩く殺人事件発見機のおかげで婚約破棄されました

作者: 更科

あまり深く考えることなくさらっと読んでくださいね。

 私、アウグスタ・ジュリエットは華のルーベルタ学院の生徒である。いわゆるいいところのお嬢様で、わかりやすく例えれば公爵令嬢とかいう感じのやんごとなきところの一人娘である。

 兄が一人いるのだけれど、歳が十歳離れていることもありかなり可愛がられているという自覚はある。お金のある家なので、何不自由なく暮らしているし、魔法の才能があったため、かの有名なルーベルタ学院に通っている。

 人生イージモードというやつだ。

 前世の記憶持ちというのが難点ではあるが、それはそれ、前世の記憶と今の自分はまったくの別人として処理しているので以前の私のことは物語の一つとして見ている。

 今の生活環境とはまったく異なる記憶の中の私の話はとてもおもしろい。

 が、それだけだ。今の私に関係するものも見当たらないのだしーーと思っていたのは十五歳までだった。

 私は夢現に前世の記憶を見ていて、そこに自分と同じ名前の学生の出てくるゲームをプレイしているのを見たのだった。

 サイトで攻略方法を見ながらさくさくっとすすめていくそのゲームはだいたい1つのルート三十時間ほどの短いゲームだった。

 その中でジュリエットは[卒業パーティーで婚約破棄される令嬢]という役柄だった。嫉妬に狂って主人公の女の子に数々の嫌がらせを行い、犯罪めいたことにすら手を染めてしまうという(でも犯罪ではない)。

 ……完全に咬ませ犬であった。


「あー咬ませ犬……」


 婚約については心当たりがある。

 最近になって父に打診されていたのである。絵姿を見たが、そう言われればゲームの攻略対象の青年と似通っていた気がする。

 しかし断るにももう話はすすんでしまっている。今からいきなり理由もなく断るとこちらの不利になってしまう。無理な要求をつけられたり、除け者にされたりと貴族社会というのは難しいことだらけなのだ。

 ゲームの中のジュリエットは赤いドレスを着ていることが多いのだが、今のジュリエットの手持ちには赤いドレスはない。これはこちらが歩み寄って赤いのを着た方がいいのだろうか。

 主人公は茶色の髪で肩まであるボブカット。庶民だというから髪を長く伸ばす習慣はないんだろう。

 名前はプレイヤー独自でつけるものだったのでデフォルト名がない。

 同じ学年で庶民で髪が茶色でボブカット。そんな子は吐いて捨てる程いるのが我がルーベルタ学院だ。受け口の広いマンモス学院。

 出会いを阻止するのは諦めた。

 ジュリエットの場合特にその後死刑になるわけではないことを知っている。

 エバンスという男爵と結婚するらしい。ちなみにエバンスというのはジュリエットの10歳年上である。奇しくも兄と同じ歳である。その年まで売れ残っているのはなにか訳ありなのかもしれなかったが、そこまでの情報は知らない。脂ぎったおじいちゃん世代の愛妾にされないだけ、温情のある展開だった。

 というのは脚本家のこぼれ話的なところで見た。死ぬわけでもなければ、妾になるわけではない。庶民になれと言われるわけでも国外追放でもない。

 実際のところ今の婚約者はなんか受け付けない。生理的になんか無理。理由はない、でもなんか会ってみたら生理的に無理すぎる。あの男とベッドを共にするのはなんかもう吐きたいぐらいに嫌だった。

 となればやることは一つだった。

 時が来ればゲームの展開通りに! 適度に主人公を虐める! 

 手紙で人気のない場所に主人公を呼び出して水を浴びせるときにはさすがに良心が傷んだけれど、ジュリエットは完璧に悪役令嬢となっていた。


 いや、自分の才能が怖い。


 婚約破棄を宣言されるのは確か今日の夜の舞踏会だったので、お昼の立食パーティーではのほほんとしていられる。程よくお食事を摘みながら歓談する。

 夜には波乱が待っているし、そのあとはこんな風に穏やかにお茶会など出来ないだろうからとジュリエットは暖かい太陽の下でのガーデンパーティーを楽しんでいた。

「キャーーーー!!!」という複数の女性の金切り声が聞こえるまでは。




 ついつい野次馬根性が沸いてきてしまい、声のした方へと、来てしまった。

 丸く人が破れているその場には人がうつ伏せて倒れている。服装から男性だということはわかるけれど、顔は見えず、どこの誰なのかは判断できない。

 ピクリとも動かない。近くで唯一首筋と手首を調べて脈を測っていた青年がゆっくりとその手を置き、首を振った。

 ……事切れているんだろう。

 持病かなにかで? 発作? こんな天気のいいうららかな日に……

 主催者である学園の先生がかなり大きな布を持ってきて、それを見えないようにしている。

 先程脈を測っていた青年がなにやらちょろちょろと、動き回っている。

 こんなことがあったからにはお茶会はお開きだろうと考えたジュリエットの耳に朗々とした声が響いた。


「これは殺人事件です。皆さま、事情聴取に御協力ください。事情聴取を拒否した方に関しては不敬罪で処罰の予定です」


 不敬罪で、ということは先ほどの遺体は王族関係者だったのだろう。

 ざわざわとしたさざなみが人々の中を移動していく。


「まずは関係者の方から。王族の婚約者の方がいらっしゃいましたらお進みください」


 その言葉にジュリエットは顔をしかめた。

 ジュリエットの婚約者というのは継承順位は低いが王子なのだ。第五王子エルブラントというのが《それ》にあたる。

 周りの視線に追われるようにジュリエットは歩みを進め、青年の前に立った。


「ありがとうございます。別室を用意したのでそちらでお話をお伺いします」


 まるで警察のようにこの場を仕切る青年は黒髪に薄氷のような目の色をしていた。黒髪ということは聖女関連の家柄なんだろう。

 案内されるままに別室へと移動したジュリエットはいくつか質問に答えていく。

 かなり無駄のない質問だったと思う。

 そうして話は件の第五王子の話になり、第五王子の婚約者ではあるが最近疎遠な事を素直に話す。すると、第五王子に他に女がいるのか、と聞かれたのでこれまた素直に主人公の名前を上げた。

 誰でも知っている情報ではあるが、ほかの人は知らないなどと言って報告しない可能性が高い。浮気されている本人が申告すべきだろう。


「なるほど、わかりました」


 普通は何か慰め的な言葉が掛けられるのだろう。が、青年はそうしなかった。変な人である。

 事情聴取が終わったため、帰宅してもいいことになった。

 はぁ疲れた。まだ夜のパーティーでの婚約破棄宣言が残っているのだから出来るだけ早めに帰宅したかったのである。

 ジュリエットはそそくさと馬車に乗り、帰宅した。


 すると、1時間後に王様から使者が来た。

 何事だと急いで登城すれば、いかめつい顔をした王が重々しく口を開いた。


「ジュリエット、そなたの婚約者であった第五王子のエルブラントは……逮捕された」


「…………??」


 言葉の意味がわからず、ジュリエットは取り敢えずの笑顔のままで王を見た。


「戸惑うのも、無理はない……私とて驚いている。そなたも居合わせたと報告があったが、エルブラントは昼のパーティーでの……事件の首謀者と共謀していたことが判明している。そのため逮捕と相成った」


「首謀者とは……?」


 共謀して自分よりも継承権の高い王子に手を出したということなの?? 噂によると亡くなったのは第四王子だったのだという。今のご時世そういうの流行らないんですけど、マジな話なのか? 


「これは伏せてもすぐに耳に入る情報だが……アリサという平民だ。そなたは面識があるだろう」


 えっと? それはボブカット主人公では? あの虫も殺せなさそうな子が殺人? え、こわ。あんな純朴な顔してたのに……

 ジュリエットはさすがに話の展開についていけない。


「そなたには誠に申し訳ないことをした」


 なにが、とはさすがに聞かない。


「それでは婚約のことはなかったことに、と言うことですね、了承いたしました」


 王家からの謝罪のこころくばりについては、家長である父にしてもらうことにした。第五王子が完全に悪い。

 この年になって急に婚約者がいなくなるとか、もういい人みんな婚約者がいるし、なんなら卒業したと同時に結婚する。自身が悪くなくとも犯罪者の元婚約者なんて肩書ではどうしようもない。

 果たして婚約破棄とどっちがマシなのか。

 なんか思ってたのと違うけどエバンス男爵と結婚する展開は同じなんだろうか。

 なんて思っていたが、エバンス男爵の噂がジュリエットに舞い込んできた。


 調べようとしてもいないのに。

 運命的なそれを感じる。


 エバンス男爵はいわゆる警察機構に勤めているらしい。男爵というのはエバンス男爵の数々の功績を称えての勲予で、もともとは平民なのだという。

 彼は《歩く殺人事件発見機》という二つ名をほしいままにしている。つまりエバンス男爵が歩けば殺人事件にあたる、らしい。

 それは昔かららしく、婚約者等がいないのはこの辺のことが関係しているのだという。デートに行けば殺人事件にぶち当たり、買い物に行けば殺人事件にぶち当たり、泊まりの旅行をと思えば殺人事件に巻き込まれる。

 そりゃ婚約やめたくもなる。

 黒髪ではあるものの、先祖返りらしくその詳細は分からずじまい。いいように言えばミステリアス悪い意味でデンジャラスという感じだ。

 そうしてジュリエットにはその人らしき、青年に心当たりがあった。

 手慣れた手つきで死体を検分していた鼻筋の通ったあの青年である。若いのに熱心な人だと思っていたが……黒髪はめったにいないのだ。

 警察機構に属する黒髪青年とくればもうはずれようもない。

 悪い人ではなさそうだしジュリエット的にはオッケーな感じだった。清潔感もあるし。脂ぎってないし?浮気しようものなら即座に殺人事件に巻き込まれるだろうから浮気の心配もない。退屈しなさそうだし。

 俄然エバンス男爵に興味が湧いてきた。

 どう転ぶかわからないのだし、お父様にそれとなくお話してみようかな。死体検分するあのときのお姿に一目惚れしましたとかなんとか言ってみようか。

 怪しいかな? 

 うーん、でもお父様は結構過保護だし反対するかな? なにせ一目惚れの相手は《歩く殺人事件発見機》だ。私が親なら絶対止める。

 ……お兄さまと大の親友だったりしないかしら。

 年齢が同じならジュリエットと同じようにルーベルタ学院に入るのが普通だし同級生の可能性は高い。


 ジュリエットはそわそわしながらもうすぐ家長を継ぐ兄の帰りを待っていた。


 

 

悪役令嬢の話のテンプレートに則って書いてみたかったので書いてみました。


評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ