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ダンジョンが現れた世界で『妹のヒモ』と呼ばれた男が覚醒して成り上がる!  作者: すいまる
第二章『専属』

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第50話

 カケルさんがボス戦に挑むことを決断した後のファイブスターズの動きは、驚くほどに早かった。

 もちろん徘徊の可能性を警戒して、諸々をなるべく早く終わらせる必要があったことは間違いない。

 だが、それにしても実際に行動に移せるというのはファイブスターズが優秀であるからだと俺自身は強く確信しているところだ。


 まず最初に行われたのは簡易的な作戦会議。


「なるべく時間はかけたくないけど、作戦は慎重に考えよう。遠慮せずにどんどん案を出してくれ。」


 カケルさんの言葉を合図に、俺も含めた5人が次々と意見を出し合っていく。

 ファイブスターズの行動方針における最終的な決定権はリーダーであるカケルさんにあるが、決してワンマンパーティーではなく、お互いの意見を尊重し、最良の選択ができるように議論を重ねるのが、このパーティーの基本方針だ。


 これまでは遠慮するところがあった俺だが、そうも言ってはいられない状況に、遠慮する気持ちをどうにか奥深くに押し込み、気になったことや気付いたことはすぐに言葉にするようにした。

 ここまでの戦いは他の4人のフォローがあればまず負けない、という戦いばかりだったが、今回はこの4人が直近で負けている戦いである。

 俺の遠慮心がパーティーメンバー全員の身の危険を冒しかねないのだ。


 そんな中、いつもよりかなり短い10分ほどで行われたその会議で決められた作戦は、マスターを含めた5人で戦った前回と根本的な部分が異なるものになった。


 前回は前にも教えてもらった通り、最序盤にハイオーガ3体のうち1体をヒカリさんが誘きだして、茜ちゃんの魔法で倒しきることができ、そのおかげでボスであるジェネラルオーガに人数を割くことができたという。


 だが今回はこの作戦は、はなから狙わない。

 いや、正確には狙えないと言った方が正しいだろうか。


 5人で戦闘中の様々なシチュエーションを想定していく中で、遠距離から全員のサポートに回る茜ちゃんの魔力は、何かあった時に備えてなるべく温存しておきたいということになったのだ。

 本来の力が発揮できる状態であれば前回のような序盤で魔力消費の多い魔法を使っても問題ないが、今の茜ちゃんはそうではない。

 これまでの茜ちゃんを見ていると、とても力が弱まっているとは感じられないが、本人や茜ちゃんをよく見てきた他のメンバーがそう言うのなら間違いはないだろう。


 つまり今回の作戦では茜ちゃんが魔法で遠距離からサポート。

 カケルさん、ヒカリさん、ミサキさんがそれぞれハイオーガ一体ずつ。


 そして俺が1人でボス、ジェネラルオーガの相手をして時間を稼ぎながら、他の皆の加勢を待つ、ということだ。

 議論を重ね、色々な案を出した結果、一番シンプルな作戦となったのである。



「本当に大丈夫なのよね?」


 作戦会議が終わりボス戦に挑むまでの少しの間、扉の脇の壁にもたれかかるようにして黙想して座り込んでいた俺に、ミサキさんが心配そうな声音で話しかけてきた。

 精神統一をしている風で座っていた俺だが、全くそういう訳ではなく、単純に多少出始めた緊張を抑えるために目を瞑ってみただけである。


 俺の内心に気付かれるわけはなさそうなのだが、なぜか急に恥ずかしくなって、少し動揺した気持ちを抑えながら俺を窺うように見つめているミサキさんに返事をする。


「任せてください、ミサキさん。一対一であればいくらでも耐えきる自信はありますから。」

「そうだけど・・・。」


 自信ありげな俺の返答を受けてもミサキさんの不安そうな顔は晴れず、ミサキさんはそのまま俺を窺うようにして見続けている。

 俺のこの言葉は本心からのものだが、全く心配事がない訳ではない。

 もちろんミサキさんが端にいた俺にわざわざ声をかけてきたのも、その辺を理解してのことだろう。


 心配事とは。


 作戦会議でも話題に出たことだが、当然ながら俺が一番注意するべきなのは前回撤退するきっかけにもなってしまったジェネラルオーガの魔法だ。


 そもそも『全てを守る壁』の能力は、想像できる正面からの動きにめっぽう強い。

 1対1かつ、壁を相手の動きに合わせて動かすことができるような相手だと、相手の強さは問わないとまで思っている。


 しかし、逆に言ってしまえば想定外の突然の攻撃や、同時攻撃、視界外からの攻撃には、現時点で弱い部分がある。


 基本は手に持った武器で戦うジェネラルオーガだが、いつ魔法を使ってくるかはジェネラルオーガ次第。

 前の戦いで途中まで温存し、優位になったタイミングで切り札的に魔法を使ったところから、ジェネラルオーガがある程度の知能を持っていることも分かる。

 他の戦ってるメンバーにターゲットが移らないようにするためにも、不意打ち、同時攻撃、目をそらした隙など、戦闘中に油断することがないように常に集中しながら戦う必要があるのだ。


「もちろん色々考えてはあります。弱い魔法なら問題なく対処できるでしょうし、強い魔法であるならあるほど発動までの時間や予備動作で考える時間が生まれるはずですから。」

「確かにそれはそうかも・・・。だけど一つ私からアドバイスができるとすれば大きい魔法はあまり警戒する必要がないってことかな。もともと魔法を使うと思っていなかった種族だし魔法への親和性はそれほど高くないはずだから。」

「・・・なるほど。確かにそれなら、過度な心配も良くないかもしれませんね。」


 俺はミサキさんの言う通りかもしれないと頷きながら答えた。

 この第5ダンジョンに登場してきたゴブリン、オーク、オーガの三種族はどれも魔法よりも武器を使っての肉弾戦が基本だ。

 例外として魔法を使えるように進化したタイプや上位種は魔法を使えることもあったが、どの魔物が使う魔法も決して強いといえるものではない。


 ダンジョン界隈では、全ての魔物が魔法を使える種族は進化するにつれて使う魔法も強くなっていくことが常識である。

 オーガという種族はジェネラルオーガ以外一切の魔法を使ってこなかった脳筋よりの種族であり、知識と照らし合わせるとミサキさんの言ったことは理にかなっている。


 しかしその反面、これこそが考え事が増えている原因でもあった。

 ジェネラルオーガ以外のオーガが魔法を使わないということは、オーガの使う基本属性が存在しないということでもある。

 カケルさんによると怪我を負ったのは風魔法によるものだったらしいが、10階のボス、ゴブリンジェネラルの持つ武器が異なるように、ジェネラルオーガの使う魔法の属性も異なると思っていた方がいいだろう。


「まぁともかく、俺に任せてください。なるべく早く手助けしてもらえると助かりますけど。」


 これ以上ミサキさんとの会話を続けては心配事を増やしてしまうだけだと思った俺は、話を切り上げるために真剣な表情を一変させ、おどけるようにして、しかしながら決して目線をそらさないように、声音は真剣なものそのまま、そう言った。


「・・・それはもちろん!」


 俺の言葉に一瞬驚いたような顔をしたミサキさんだったが、俺の意図を汲みとってくれたのか、いつも通りの笑顔で明るく答えてくれた。

 そのままミサキさんはなぜか少しだけ照れたような顔をして、思い思いに休憩を取りながら準備を進めている他の3人のもとへ戻って行く。


 茜ちゃんにちょっとだけ赤くなった顔を指摘されたのか、笑いながら怒ったような表情を見せて軽く茜ちゃんの頭をはたくミサキさん。


 はたかれたまま頭の上に置かれ続けたミサキさんの手を嫌がりながらも、払おうとはせずまんざらでもない感じでなでられ続ける茜ちゃん。


 自分の武器を予備も含めて全て取り出し、じっくりと最終確認をしているヒカリさん。


 そしてその光景を横目で眺めて、頷きながら3人に気付かれないように笑うカケルさん。


(ファイブスターズはやっぱり『家族』だ。)


 失敗は、自身で宣言したときからする気がない。

 だけど俺の中での決意は固くなる一方だ。


「さぁ、そろそろ行こうか。」


 カケルさんが合図をかけ、皆の顔が一気に引き締まる。


 俺にとってはこれまでで間違いなく一番強い相手。

 ジェネラルオーガ戦が、いよいよ幕を開ける。




長らくお待たせいたしました。約1カ月半ぶりの更新になってしまいました。

寒い日が続く季節となっておりますので、どうかお体には気を付けてお過ごしください。


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