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ダンジョンが現れた世界で『妹のヒモ』と呼ばれた男が覚醒して成り上がる!  作者: すいまる
第二章『専属』

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第41話

 目の前に対峙しているのはキングオーク。

 自分の体長と同じくらいの長さの金色のこん棒を肩に担ぎ、余裕そうな笑みを浮かべている。


 改めて近くで見てみるとその大きさはもちろんだが、醜くも凶悪さを感じることのできるブタ系統の顔は、ダンジョン発生前に突発的に出会ったら腰を抜かしていたに違いないと思えるほど恐ろしい。


(やっぱり来ないか。)


 基本的には相手に攻撃をさせて壁にダメージを溜めたい俺と、様子をうかがうキングオークとの間でお見合い状態が続く。

 やっぱりと思ったのは、陣形を守りに徹する形にしていたためにキングオークが慎重な性格であると考えていたからだ。


 だが、今回ばかりは時間が稼げることは非常に大きな意味を持つ。

 警戒しなければいけないのはキングオークが命の危機を感じた際に放つ咆哮。

 時間が経てばたつほどフロア内のオークは他の4人によって数を減らしていくのだ。


 それを理解してかは分からないが、俺に先制攻撃の意思がないことを感じ取ったのだろう、ついにキングオークが自ら動き始めた。


 縦だけではなく横にも大きいキングオークが歩くたびに、ドスンドスンと小さくない振動を地面伝いで感じる。


(来いっ!)


 親衛隊のハイオークにダメージはぶつけてしまったため、今の壁に溜められているダメージはほとんどないと言っていい。

 攻撃を一切せずに防衛だけに徹するつもりの俺は、1メートル四方の壁の後ろになるべく体全体を隠すようにして、キングオークの攻撃に備える。


 近付いてきたキングオークも俺が避けずに受け止めるつもりだと分かったのだろうか、一切の防御を捨てて金ぴかのこん棒を大きく振りかぶって、勢いよく俺に向かって振り下ろした。


(お、重いっ。いや、これまでと同じだ!)


 一瞬衝撃を受けたような気がして焦るが、そんなことはなかった。

 衝撃は全て壁によって吸収されたようで壁に何かが当たった感覚が残っているだけ。

 当然俺自身には何のダメージもなく、むしろ全力の攻撃による反発ダメージをくらったキングオークの方がダメージを負っているように見えた。


 ウガァァァア


 一歩後退したキングオークが雄たけびを上げる。

 警戒していた咆哮かと驚くが単純に吠えただけのようだ。


(・・・怒らせたかな?)


 盾職の少ないダンジョン攻略者の世界で、一切のダメージを負うことなくキングオークの全力の攻撃を受け止めたのは俺が初めてではないだろうか。

 能力検査の際に雪の氷魔法を受け止められていたため、きっと大丈夫だとは思っていたがノーダメージは正直予想以上だった。


 しびれ効果から軽い骨折まで治すことのできるダンジョン産の回復ポーションを一応ポケットに忍ばせていたが、どうやら壁で受け止める限りは必要なさそうだ。


 こうなってくると今度は余裕が出てくる。

 キングオークに素早さがない訳ではないが、何にしろ図体が大きいため少しの動きで狙いが読み取れてしまう。

 キングオークもこん棒による攻撃だけでなく意表をつく狙いで蹴りやフェイントも織り交ぜてくるが、俺は冷静に壁を前面に出して受け止めていく。


 そんな風に十数回攻撃を受け止めたとき、怒りで攻撃が雑になっているキングオークについに隙が生まれる。


(壁での攻撃はだめでも剣による攻撃なら!)


 かなりの体力があるはずなので今の壁にたまったダメージで一気に危機に陥れるほどまで削りきるとは思えないが、念のために左手の剣での攻撃を選択する。

 俺は一気に前に飛び出て隙ができた胴体に渾身の一撃を振りかざす。


(えっ?)


 鎧の隙間から見える肌を狙い、確かに剣はそこを捉えた。

 しかし、剣が、直接肌に当たったところからぽっきりと折れたのだ。


 愛剣は事件の時にゴブリンジェネラルとの戦いで折れてしまったため、今使っていたのは予備の剣、愛剣を手に入れる前に使っていた剣だ。

 確かに使い込んでいたし、値段も安めで耐久値は高いとはいえないだろう。

 しかし今までは何の問題もなかったことを考えると、剣の問題というよりは単純にキングオークが硬いのだろう。


(そんな・・・。ダメージを与えられないどころか、剣が折れてしまうなんて・・・。)


 これによって調子を出したのは、もちろんキングオーク。

 剣をしまい、右手の前に出された壁だけで待ち構える俺は一見攻撃手段を持たない。


 さっきまでの雑な攻撃が嘘かのように、一転苛烈な攻撃を加えてくる。


 俺は状況が変わったわけではないと自分に何度か言い聞かせ、心を落ち着かせる。

 愛着があった剣であったため多少のショックはあるが、もともと剣でキングオークを倒そうと思っていたわけではない。


 折れた剣より良い予備の剣はないためカウンターでの剣による攻撃は諦め、今度こそ壁による防御だけに徹することを再確認する。

 キングオークの攻撃は一撃一撃が鋭いものではあるが、最初から攻撃の意思を持たずに守るだけというのであれば受け止めるのはやはり難しいことではない。

 ある程度の余裕もあり、キングオークが離れたタイミングで周りを見てみるとオークは順調に数を減らしており、カケルさんとミサキさんが戦っているジェネラルオークも傷をかなり増やしつつあり倒されるのも時間の問題だろう。


 再びキングオークの方に視線を戻すとまた攻撃を仕掛けてくるという予想に反して、意外な行動を見せていた。


(まずいっ!)


 一切ダメージを負わない俺にしびれを切らしてターゲットを切り替えたのだ。

 慌てて俺はキングオークの後を追うが、そもそも歩幅が違うためなかなか距離を詰めることができない。


「カケルさんっ!キングオークがそっちに行っています!」


 動き出した方向から考えてキングオークの狙いはカケルさんだろう。

 カケルさんが担当している左側は序盤に魔物を引き付ける戦いをしていたことで、右側よりも残っているオークの数が多い。

 現在相手をしているジェネラルオークも傷だらけとはいえまだ戦える状態で、蓄積された反発ダメージがありつつも動きはまだ万全なキングオークが戦闘に加わってしまうと、さすがのカケルさんも劣勢になってしまうだろう。


 俺も全速力で追ってはいるが、どう考えてもキングオークがカケルさんのもとに辿り着くのが早そうだ。


 だが俺の心配は杞憂だった。今は一人で戦っているのではなく、他にも仲間はいるのだ。

 俺が出した声で状況に気付いたのだろう、まず茜ちゃんのいつもより大きいバレーボールほどの綺麗な水色の魔力水晶がキングオークのもとに飛来し、それを避けさせることでキングオークの勢いを殺す。

 そして間髪を入れずにその隙に追いついたのだろう、気配遮断を解除したヒカリさんが短剣を構えてキングオークの前に立ちはだかった。


「そちらは駄目です、キングオークさん。」


 そう言っていきなり現れたヒカリさんに驚いたキングオークがのけぞった瞬間、ヒカリさんが目にもとまらぬ速さで突撃し、露出された足元の辺りを短剣で切りつける。

 一瞬先ほどの光景が思い浮かんだが、俺のように剣が折れることはなかった。

 むしろキングオークは初めて目に見える傷を負って、自分のターゲットを変更する作戦が失敗したことを悟る。


 だがキングオークの立て直しも早かった。

 すぐに我に返ったキングオークは勢いそのまま離脱したヒカリさんに標的を変え、素早くこん棒を振り下ろす。


 ヒカリさんは直前まで避ける動作を見せることなくフッと笑うと、気配遮断を発動して姿をくらました。

 親衛隊の時に姿をくらますのを見ていたであろうキングオークも慌てることなく、こん棒を振り回しヒカリさんを探すが、振り回されたこん棒がヒカリさんを捉えた様子はない。


「ヒカリさん、助かりました!」


 その間にようやくキングオークに追いついた俺が振り回されたこん棒を壁で受け止め、再びターゲットをもらう。


「気にしないで。ここからは私も助太刀します。」


 後ろからそうヒカリさんの声が聞こえ、俺がキングオークの攻撃を受け止めた後、死角からヒカリさんが現れダメージを与え過ぎないようにキングオークを切りつけ小さな傷を増やす、そういった波状攻撃を繰り返しキングオークを疲弊させていく。


 それを繰り返しているうちに右側のジェネラルオークを倒したミサキさんが合流し、程なくして近くで戦っていたカケルさんも合流する。


「陽向くん、残るはキングオークだけ。攻撃解禁だ。」

「分かりました。スイッチします!」


 反発ダメージを受けてキングオークがノックバックした瞬間、俺は横に大きく勢いをつけて飛び、後ろに控えていたカケルさんとスイッチする。


『火炎斬』


 カケルさんがそう唱えると大剣に赤と橙の大きな炎が纏わり、そのまま鎧など気にすることなくキングオークを正面から切りつける。


 アガァァァア


 見るからに高火力な攻撃であったが、キングオークは満身創痍で立ち上がり部屋が震えるほどの大声で叫ぶ。


「陽向くん、咆哮だ!止めを刺せ!」


 キングオークから見て左方向に退避していた俺は、カケルさんの声に反応してガラ空きになった横っ腹へと壁を押し当てた。


 アガッッ、アッ


 壁に吸収されたダメージを体で受け、先ほどとは異なる情けない小さな声を上げながらキングオークが地面に倒れていく。

 俺の手には確かな手応えがあった。


 少しすると予想通りキングオークの体は粒子となって消え、地面には宝箱と王冠、そしてこん棒が残される。


「よくやったよ、陽向くん。」


 すでにフロア内に敵の姿はなく、最後に残ったキングオークも今仕留められた。

 右肩に置かれたごつごつした頼もしいカケルさんの手が戦いの終わりを告げた。




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