悪魔の分け前
とあるところに三人の盗賊がいた。
三人とも漁村で産まれ出て、泳ぎがそこそこ上手い者達だった。
彼らは朝から昼まで野原に寝そべり、虫が肌を歩くのを我慢して、目の前の街道に馬車が通るのを待っていた。
その甲斐あってか、一人の行商から金を脅し取ったのだ。
それでその被害者は、盗賊達に人を殺す度胸が無かったので、散々に殴られた後で野原へ解放されたらしい。
これで後に残るのは一袋の金貨。
彼らは隠れ家で、この報酬を三分割しようとして、袋に入っていた金貨は8枚だった事に気が付いた。
「さて、これを分けようとすると難しい。」
このお頭の声に盗賊の年少が困り顔を晒して。
「簡単、俺とお頭が三枚ずつに分ければ良い。馬に轢かれそうになってまで行商を止めたのは俺なんだから。」
これに対して。
「それはお前の張った縄が緩かったせいだ。あれさえしっかりしていれば、わざわざ捨て身で捕まえる必要もなかった。」
こんな風に議論が進み、それでも決まらず。
「なぁ、漁船では捕れた魚を、船の持ち主が乗組員の二倍受け取っていたな。それに倣えば、俺が金貨を四枚貰うのはどうか。」
このお頭の言い分に。
「お頭も俺らも同じぐらいの働きだったのに貰い過ぎだろう。」
「そうだ、そうだ。」
結局、その日の内に分け前は決まらなかった。
お頭は行商を襲う前よりも分け前を決めるべきだった、失敗したと思い、それからはお頭を悩ませる事に集中することにしたが。
カンテラのほのかな温かみに、机に伏したまま、うっかり寝てしまう。
そんな眠りの中で見る夢にこんな事があった。
頭に牛の角を伸ばし、全身はボサボサの黒く短い毛に埋め尽くされた生物が、お頭に向かってこう歌っていたのだ。
「私は所謂、悪魔だ。それで策がある。」
お頭が目を覚ますと、外は朝だった。
寝起きから意識がハッキリするよりも先に二人を呼び、金貨の分け前に決着をつけようとした。
「さて、順当に分けようとすると話がつかない。そこで金貨2枚を泉に落とし、最初に見つけられた奴の物にするのはどうか。」
これに者共は賛成して、彼らは泉に来ていた。
それで金貨を予告通りに泉に沈めて、部下二人は底に潜り込んで、血眼になって捜し求めたのだ。
お頭は捜さなかったのである。
水の中では、盗賊の年少が金貨を見つけていた。
そこで金貨を拾い上げようとしても地面とくっ付いたように離れない、いつの間にか呼吸が苦しくなって、場を離れようとする。
けれど、その時には思うように水面へ上がれなくなっていた。
もう一人の方も同様な事が起きていた。
お頭は、昼時になっても浮かんでこない二人を知って。
「約束通り、金貨二枚はくれてやろう。」
それだけを言いの残し、彼はどこかへ去ったという。
確かに彼らは人殺しを出来なかった。
でもそれは直接的に人を殺せなかっただけの話で、間接的にならばいくらでも出来てしまうのだろう。