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 私は電気を消して、カーテンを閉めきった真っ暗な部屋で、ひざを抱えて座っている。


 会社の上司にひどいパワハラを受けて辞めて以来、私はこの部屋から1歩も出ていない。


 ワンルームマンションの家賃は両親が払ってくれるし、買い物や食事の用意は週末に1度訪れる母がしてくれる。


 冷蔵庫の中のおかずが昨日、丁度、無くなったから、今日は母の来る日だ。


 私は1日の大半をこうして暗闇で、じっとしている。


 生きるための最低限のエネルギーしか使っていない。


 この感じが好きなのだ。


 何も考えず、ボーッとする。


 心が落ち着く。


 人と関わるのは(わず)わしいし、苦手だ。


 本音を言うと、母と逢うのだって億劫(おっくう)で苦痛なのだ。


 それでも逢わないと、もっと嫌な事態になるから、そこは仕方なく我慢している。


 もし可能なら、喜んで逢うのを辞める。


 あ。


 彼氏だけは別だ。


 文彦(ふみひこ)と逢って話すのは、とても楽しい。


 彼は東大を卒業して、一流商社に勤めている。


 いつも私を「キレイだよ」「かわいいよ」と褒めてくれる。


「愛してるよ」と囁いてくれる。


 その度に私は幸せな気持ちに包まれるの。


 落ち込んだ心に勇気が湧いてくる。


 ああ、逢いたいな。


 今日も彼はきっと来てくれるから、母を早く追い返さないと…。


 玄関のチャイムが鳴った。


 私はゆっくりと立ち上がって、電気を点けた。


 ドアへと歩く。


 身体が重い。


 動くのは嫌だけど、しょうがない。


 これだけは絶対に必要だから。


 誰が来たのか確認する。


 母だ。


 ドアを開ける。


「ちょっと降ってきたわよ」


 母が言った。


 畳んだ赤い傘と買い物袋を2つ持っている。


 背中には大きなリュックサック。


 母が部屋に入ってきた。


 白髪混じりの頭頂部が私の横を通る。


 母が荷物を置いた。


「元気だった?」


 母が訊いた。


 私は無言で頷く。


「そう」


 母が微笑む。










 





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