第八十一話 「かかってこい、クソ熊公!」
ホワイトバックとの闘いが今始まる。
セロに生息している全ての種族は特性を持っている。有名な例はトロールの〝超再生”やゴブリンの〝繁殖力(強)”などだ。しかし1種族の特性を特定するには長期間の観察や研究が必要で、まだ特性が不確定な種族が大半だ。身体的特徴に関係する特性ならば特定しやすいが、そうでない場合は特定するまでに膨大な時間が掛かる場合が多い。ヒューマンの特性も諸説が多数あり、まだしっかりと確定されていない。
冒険者にとって魔物の特性は大切な情報の1つだ。特性が特定された魔物は魔物図鑑などの書物に記載されている。ちなみに今までヒロシ達が討伐してきた魔物達は特性が特定されている物がほとんどだ。例えばホーンラビットの特性は〝繁殖力(並)”でシャルルジカは〝俊敏(並)”になる。
当然、強力な魔物は厄介な特性を持つ。今ヒロシが相手するホワイトバックの特性は〝剛毛”。この特性も下級冒険者にとって非常に厄介な特性の1つだ。
俺は本能のまま体を動かす。ホワイトバックを追いかけ、後ろ姿を捕える。少し斜面になっているのか、俺が坂の上で下に降りていくホワイトバックを見下ろす構図になる。ホワイトバックはまだ俺に気付いていない。先制攻撃するならば今が絶好のタイミング。
幸いな事にホワイトバックはまだジャックに止めを刺す前だった。俺はエクストラポケットから投げナイフを静かに取り出す。片手に3本ずつ握り、大熊の背中に向かって全力で投げた。
ガッガガガガガ
6本の投げナイフはホワイトバックの背中に見事に当たるが、刺さる事はなくそのまま地上に落ちていく。特性剛毛故に全身に刃が通りずらくなっているからだろう。並の武器では大したダメージを与える事が出来ない圧倒的な防御力、そして、シルバー級の防具でさえも防ぎきれないパワー。これらが下級冒険者を苦しませる要因だ。
「ック。」
ホワイトバックはこちらにゆっくり振り向く。
ダメージはほとんどなくとも注意を引く事には成功した。俺はエクストラポケットから猛毒(普通)を取り、蓋を外した。片手で2本のダガーを持ち、猛毒(普通)をダガーの刃に掛けていく。
「グウァーーー。」
ホワイトバックは俺を睨み、吠える。これまでの魔物とは格が違う圧力にたじろぎそうになるが、ここで折れるわけにはいかない。
「かかってこい、クソ熊公!」
俺も負けじと吠えた。
俺の叫びと同時に大熊が登ってくるが、俺は後に逃げる。斜面よりも慣れている平面での戦いに持ち込むためだ。ダガー2本を抜き、大熊を待ち構える。想像以上に自分が冷静である事にここで気付く。先ほどまで激昂していたはずなのに今は冷静に相手と自分の事を見定めていた。自分が相手より何が優れているかを考える。
年末最後の投稿。