第七十一話 「ちょっと待ってな。」
少しずつですが、着実に進む。
12月9日 7:00
俺は少し早起きをして、庭で動きながら弓を引く練習をしていた。木材を適度な間隔に置いて的にしている。まずは動きながらでも止まっている標的に当てるようにする。
「走りながら弓を引く事を普通であるかの様に。」
昨日ルイスさんが言っていた事を意識しながら動いてみる。
「ふわぁーあ、朝から熱心だな。」
後ろを振り向くとルイスさんがいた。
「おはようございます、ルイスさん。」
「おはよう。昨日俺が言った事少しは分かってくれた?」
「はい。ほんの少しですけど。」
多分ルイスさんが言ってたのは状態と体勢の事だ。たとえ、自分が移動していても常に弓を引ける状態を保つ。そして、いつでもターゲットに射れる体勢に移れるようにする。
「そうか。だったら、そのまま練習続けて、見てるから。」
「はい。」
それから1時間、ルイスさんは本当に俺の練習を見守っているだけだった。しかし、最後に少しアドバイスをくれた。
「走りながら弓を引くことを普通であるかの様に。昨日俺はそう言った。でも、 すぐにその感覚を物にできるわけでもない。もしそれが難しかったら自分が動く必要がない状況にする。これも手だ。」
12月9日 9:00
装備屋 アナグラ
「おはようございます、おやっさん。」
「お!おはよう、あんちゃん。今日は随分早いな。」
おやっさんは小物の品出しをしていた。ちなみにアナグラが開くのは朝の8時くらいからだ。
「はい。実は今日は相談したい事がありまして。」
俺は次のクエストがレッドボアである事と弓の事を伝えた。
「そうか、あんちゃんが弓をねえ。うん?確か、あんちゃんの職業忍者だったよな。」
当然、おやっさんに指摘される。
「それは、俺のスキルに関わっていることなんです。」
俺は正直に話す。これからの事を考えるとおやっさんにスキルの事は説明してもいいとは思っていた。
「ああ、だったら、詮索は野暮だったな。すまん、すまん。」
だけど、おやっさんはそれ以上聞かずにいてくれた。
俺は今使っている弓と矢を見せる。
「なるほど。今これを使っているのか。」
おやっさんは弓と矢を鑑定している。
「おし、あんちゃん。これでレッドボアを狙うのは火に油だ。」
「やっぱり…ですか。」
「ああ、まずこの弓では射程距離が短すぎし、この矢じゃあ猪の奴には刺さらねぇ。」
「そうですか。はあ。」
挑む前におやっさんに確認してもらって良かった。
「ちょっと待ってな。」
そう言うとおやっさんはカウンターから出て、奥の工場に入っていった。
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