第六十六話 「ありがとうございます。」
今月第1話。
12月6日 19:00
ファミリアサンダーバード 自室
俺は早めのシャワーを浴び、部屋で魔物図鑑Ⅰを読んでいた。もちろん、次のターゲットであるレッドボアのページを読んでいる。
レッドボア:西大陸全域で生息している大型の猪。怒ると血が毛先まで登り、全身が茶色から赤に変わる。成体になると体長は2から3m、体重は約1から2トンにもなる。
これ以外にも初心者に対しての注意点なども書かれていた。
「レッドボアの突進には要注意か。はあ。」
俺は溜息を吐く。俺のダガーでは相当近づかないとレッドボアに当たらない。そもそも、あの厚い表皮に刺さるかどうかも分からない。レッドボアは数度ベーテの森で見かけた事がある。クエストの目標ではないから避けてはいたが、対峙すると面倒になるとは思っていた魔物の1種だ。
(これは本格的に考える必要があるな。)
俺はステータスを開き、レベルがまた1つ上がっている事を確認してから寝た。
12月7日 7:00
薬屋 ボン・サンス
俺とジャックは薬屋ボン・サンスの前で集合した。
カランカラン
「おはようございます。」
「あら、ヒロシ君とジャック君、久しぶりね。」
店に入るとアリエットさんが出迎えてくれた。
「お久しぶりっす。」
俺達は先の戦いで使ったポーション(普通)の補充分を買った。
「あの、今日ジルさんは?」
「奥にいると思うわよ。何か用事?呼んで来るわね。」
アリエットさんは奥にジルさんを呼びに行った。
「ありがとうございます。」
数分後アリエットさんはジルさんを連れて戻ってきた。
「ヒロシ君久しぶりだね。」
ジャックは店の前で待っててくれている。
「ご無沙汰してます。」
「今日は僕に用事があるって聞いたけど。」
「あの実は…」
俺は薬剤に興味がある事や出来れば作成方法を教えて欲しい事を伝えた。
「もちろん、代価は支払います。」
「はは、なるほど。ヒロシ君が薬剤にね。僕が空いている時間でいいならいいよ。」
意外にもジルさんから了承がもらえた。正直断られると思っていた。
「え、いいんですか?」
俺は少し驚く。
「もしかしてダメもとだったのかい?」
ジルさんの顔を見ると少し笑っていた。
「まあ、そうですね。だってもし俺が作れるようになったら、ジルさん達には損しかないじゃないですか。」
「ははは。そんな事か。薬剤が少しでも世界に広まる事に比べれば小さな事だよ。」
「それに、ヒロシ君達以外にもお客さんはたくさんいるからね。」
最後の1言はアリエットさんに聞こえない様に耳元で言った。
「ありがとうございます。」
俺は礼を言って、店を後にした。
俺とジャックはそのままベーテの森に向かう。
レッドボア戦はもう少しかかります。