第四十七話 「まあいい。ジャックの奴は後でじっくりいたぶるとしよう。こいつを助けに来るラウラどもと一緒にな。」
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11月3日 17:25
細い1本道、前方に8人、後方には7人、両方とも距離は100m近く離れている。装備から見て中級冒険者、数も実力も完全にあちらの方が上。左側は壁、右側も建物で塞がっている。今の俺達の状況は袋の鼠だ。相手は余裕の構えでゆっくり近づいてきている。
「やばいっす、やばいっす。」
横ではジャックが分かりやすくパニックになっている。
俺が冷静に状況分析できてるのはジャックのおかげかもしれない。人間、自分よりひどい状況の人が近くに居たら逆に冷静になるものだ。
だが、いくら冷静でいれても状況は変わらない。戦うのは無謀で、命乞いも聞いてはくれないだろう。ここまで周到に“狩り”の準備している奴らが暴力を振るわずに装備と金だけで立ち去るわけがない。問答無用で手持ちの全てを奪い、それからボコボコにするつもりだ。弱者をいたぶるのが楽しい輩どもはどこにでもいる。戦闘も降伏も無理だとすると逃げの一手しかない。
「ジャック、俺を踏み台にして左の壁をよじ登れるか?」
俺は小声でジャックに囁きながら、左手でリュックの左側についてるポケットに手を伸ばす。緊急時用にリュックの両側のポケットに1つずつけむり玉を入れていた。
「え、多分できると思うっす。」
ジャックは少し驚きながら、左側の壁をちらりと見た。壁の奥は住宅地、流石に相手も住宅地で暴れようとは思わないだろう。
「よし、ジャック俺を踏み台にして壁をよじ登れ。」
俺は壁に近づいて行く。けむり玉を両足の間へ転がす。
「な、それじゃあヒロシはどうなるんすか。」
「俺の事はいいから、早くしろ!」
ここからはスピード勝負になる。相手も俺達の動きに気づいたのか走ってきた。
「俺1人ならどうにかなる!だから気にするな!」
俺は声を荒げて、ジャックを急かす。
「…分かったす。」
ジャックも覚悟を決めて、こっちに走ってくる。俺は中腰になり、両手で足場を作る。飛んできたジャックの足を支え、力いっぱい上に押し上げた。
頭上を見るとジャックは壁に手をかけ登っている。
「ジャック、ファミリアサンダーバードに向かえ!頼んだぞ!」
「了解っす。ヒロシも無事に逃げるっすよ。」
壁の向こうからジャックの返事と立ち去る音が聞こえた。
「ああ。」
俺は手短く答えた。
前を向くと15人のチンピラに囲まれている。
「っち、1人逃がしてしまったか。」
チンピラの1人が恨めしそうに俺を睨む。
「まあいい。ジャックの奴は後でじっくりいたぶるとしよう。こいつを助けに来るラウラどもと一緒にな。」
バトルアックスを背負った大男が俺を見ながら不敵に笑う。
最近風邪をひきました。