第一話 「どうなってんの?んでここ何処?」
ある日、俺は自分で自分が嫌いになった。理由は大したものではない、今まで努力をし続けた自分、しかしその努力は実らなかった。たった数度の挫折で心が折れた。これまで自分は他人より努力してきたと思う。当然失敗も挫折もしてきた。だが、やはり努力が実らないかもしれないと知った時、人の心は簡単に折れてしまう。漫画やアニメの主人公はその後に何かのきっかけで復活するが現実はそう簡単にはいかない、立ち上がるのもこのまま諦めるのも自分次第だ。そんな事を思い、深いため息とともにベットに入る。いわゆる現実逃避だ。人それぞれ逃げ方はあるが、俺の場合寝る事だ。寝続け、起きない事だ。この日もそうした。
「起きなさい!」
どこからか声がする。正直今は答えたくはない、俺は無視する事にした。
「起きなさい!!!」
今度は我慢できないほど大きな声で叫ばれた。気のせいかもしれないが頭痛がしてきた。
「なんなんだよ。てか誰だよ」
俺はしぶしぶ目をこすりながら起きた。目の前には光り輝く謎の白い球が浮いていた。
直径約30㎝の白球はベットの上50㎝ほどに浮いていた。俺は目のまえの現象を冷静に考える。
(なるほど、夢か)
「なんなんだよとはご挨拶ね。私は女神よ。」
白球から声が出ているわけではない。声は頭に直接届いている。
(これがテレパシーか、夢って何でもありなんだな。それとも俺の想像力が情人離れしているのか。)
「あなたに選択肢を上げるわ。このままこの世界で過ごすか、それとも違う世界でゼロから生きるか。どちらがいい?」
白球もとい自称女神(てか神ってこんな形なの?)は突然意味不明な質問をしてきた。
「あ!なんだそれ?」
当然、話についていけるわけもない。
(異世界小説の読みすぎだな。)
「大切な事なの、さあ選びなさい」
女神は問答無用で答えを求めてくる。
(これは選ばないと進まないな。どうせ夢だし、適当でいいか)
「わかったよ。異世界でいいよ」
そう、この時、俺は寝ぼけていた。そうでなければこんなバカげた答えも出なかっただろう。いくら現実逃避したいからと言ってこんな選択はしなかった。この世界にもまだ未練はあったのだから。これから俺はこの選択に少なからず後悔をする。
「それでいいのね?じゃあ行ってらっしゃい」
白球もとい自称女神はそんなことを言った。一瞬白球なのに女神が笑ったように見えた。それが俺のこの世界の最後の記憶になった。
カサカサ
手には草の感触、においも草のにおい。見えるのは歪んでいる晴れた空。聞こえてきたのは風の音。気が付いた時、俺は草花生い茂る草原にパジャマ用のシャツとズボンで仰向けに寝ころんでいた。
「どうなってんの?んでここ何処?」
静かに呟く。人間、本当に理解不能な事が起きたら叫ばないようだ。