第三十九話 「最近ついてないっす。」
道の説明は難しい。
装備屋での買い物も終わり、俺は昼飯を取ろうと適当に飲食店を探していた。その途中で店と店の間にある細い道の奥、店の向こう側にある裏通りに見覚えがある鎧姿がちらりと見えた。
(お!あれジャックか。昼飯食べてなさそうだったら誘ってみるか。)
「おい!ジャ...」
俺は声をかけようとしたが止めた。
これまた見た事のあるチンピラ達の姿が見えたからだ。ここからでは声は聞こえないが、様子を見るに絡まれているようだ。俺は少し躊躇したが、路地に静かに進む事にした。次第に話し声が聞こえる。
「ジャ…君、いいか…。諦め…。」
チンピラAが何か言っている。
(まだ距離があって聞き取れないな。)
俺は慎重に近づいていく。丁度いい場所に物陰になりそうなゴミ箱があった。
「そうそう。この町にいる限り俺たちからは逃げられないんだから。」
やっと話がしっかりと聞き取れる距離まで近づけた。完全に盗み聞きだが、状況が状況だし仕方がない。ちなみに今話しているのはチンピラCだ。
「おい!何とか言ったらどうなんだ。」
チンピラBがジャックの肩を壁に押し付ける。
「いやっす。これは俺が稼いだ金っす。」
体は震えていたがジャックはしっかりと拒絶した。
「へー。お前痛い目に合わないと分からないようだな。」
チンピラAがジャックを睨んでいる。今のジャックの状況は危ない、完全にチンピラ3人に囲まれている。このままいくと袋叩きコースだ。まさか、こんなにも早くけむり玉を使うことになるとは思わなかった。
深呼吸して左手にけむり玉を持って、左手を後ろに回しそのままゆっくりと近づいて行く。
「あれ、ジャックじゃん。変な所で会うな。」
今見掛けた感を見せ、俺はジャックに声をかけた。当然、ジャック及びチンピラ3人もこちらを見る。
「っち。」
チンピラ達は俺の事を覚えていたのだろう。俺の顔を見るや舌打ちして嫌な顔をする。
(流石に昨日からんだ奴は覚えてるか。)
「ヒロシ!」
ジャックは俺の存在に驚いていた。
「っち、行くぞ。」
チンピラ達は又舌打ちしてジャックを置いて去って行った。
「大丈夫か、ジャック。」
俺はチンピラ達が十分離れたことを確認してからジャックに駆け寄った。
「うす。大丈夫っす。ちょっと絡まれただけっす。」
「そうか。」
「また助けられたっすね。ありがとうっす。」
「俺は何もしてねえよ。」
その後、ジャックが裏通りにいた理由を聞いた。ジャックも装備の手入れをするため今日は休みにしていた。下宿先のマザーステイストにある自室で鎧の手入れをしようとしたら油が切れていたらしく、知っている装備屋に買いに来たらしい。ジャックの知っている装備屋に向かうにはここの裏通りを通った方が近道なのだそうだ。少しくらいなら大丈夫だろうと思い行ったところでチンピラどもに絡まれたという事の様だ。
「最近ついてないっす。」
ジャックは話し終えた後そう呟いた。
ジャックも昼飯はまだらしく。装備屋に向かい油を買った後一緒に昼飯を取った。場所はマザーステイスト、俺が注文したのは煮魚定食だ。
(そういや、結局のところけむり玉使わなかったな。)
最近おなかが痛い。