第三十五話 「わかったよ。」
マザーステイストでの会話まだ少し続きます。
「へー、それじゃあ、ジャックさんはここで下宿しているんですか。」
「ええ、野宿しかけた所をおかみさんに拾ってもらったんです。それで、格安で天井裏の部屋を借りてます。」
俺達はゲロッグの唐揚げをつまみながら軽く身の上を話していた。ジャックは半年くらい前にブィンドに着き、冒険者登録をしたらしい。
(ちょうど俺がこの世界に来た時くらいだ。)
しかし、最初はお金をあまり稼げず、ついに貯蓄が底をついて泊まっていた宿も追い出されたらしい。路上で野宿しかけた所を通りがかったおかみさんに拾われ、以降はマザーステイストの天井裏部屋を借りてブィンドを拠点に冒険者業をしているらしい。
「おかみさんは俺の恩人です。」
ジャックはおかみさんの方を見ながらそう言った。
「いい人なんですね。」
「はい。」
ジャックは笑顔でうなずく。
「あの、敬語やめません?」
俺は気になっていた事を口に出す。今日が初対面だから一応敬語で話してはいたが、もう打ち解けているしタメ口でいいと思う。
(敬語使うのも使われるのも苦手なんだよな。)
「え、でも、ヒロシさん年上ですし。」
ジャックは俺の提案に少し戸惑っていた。
店に入る前、道すがら俺たちは冒険者カードを見せ合っている。ジャックの歳は見た目通り16だった。冒険者ランクはGで職業は騎士見習いと書かれていた。
「いや、冒険者歴で言えばジャックさんの方が先輩になりますよ。それでプラマイゼロでいいじゃないですか。」
「わかりました。」
ジャックは了承してくれた。
「じゃあ、今からため口で。」
「…うす。」
「…」
「…」
タメ口にしたとたん2人とも黙ってしまった。ここは言い出した俺から何か話題を振らないと。
「ジャックはどうしてブィンドに来たの。」
「っえ、騎士試験を受けに来たんす。」
「騎士試験?」
俺は騎士試験について聞いた。
「騎士試験は騎士見習いから騎士に昇格するための試験なんす。この試験に合格しないと騎士になれないんす。年に1度大きな都市の教会で開かれるんすけど、俺は親友と受けに来たんす。」
ジャックは少し落ち込みながら話した。結果は良くなかったんだろう。俺はあまり深く聞かずに他の話題を話そうとした。
セロでも宗教が存在する。神は12柱いて、12神と呼ばれ、人々は12神を信仰している。宗教団体は教会と呼ばれ各国の村、町に教会が建っている。騎士とは教会に所属する戦闘員達の事だ。詳しくは知らないが正式に騎士になるためには教会が開く騎士試験に合格しなければいけないらしい。
「ヒロシさんはやさしいですね。」
次の話題を話す前にジャックが口を開く。
「結果は不合格でした。でも、親友は合格したんす。その時約束したんす。1年後の試験で絶対に合格していつか同じ騎士団に入団するって。」
「それが、ジャックの夢か。」
「そうっす。ドワーフとヒューマンのハーフの俺に町の皆は冷たかったす。でも、親友だけは普通に接してくれたんす。いつか、騎士になって見返してやろうぜって言ってくれたんす。」
「そっか、いい親友を持ったんだな。」
「うす。」
「なんで、今日会ったヒロシさんにこんなこと言ってるんすかね。ハハハ。」
「さあ、なんでだろうな。ハハハ。」
俺は可笑しくて笑ってしまった。
ドン
「はい、これサービスね。」
おかみさんが焼き鳥をテーブルに置いた。なかなかの量だ。
「ありがとうございます。こんなにいいんですか。」
俺は礼を言った。
「いいんだよ。ジャックがダチを連れてくるなんて始めてだからね。ガハハ。」
おかみさんは笑いながら厨房に戻って行く。
「次はヒロシの話聞きたいっす。」
「え、俺の?」
「うす。」
「わかったよ。」
さて、どう説明するかな。
仕事との両立はきつい。