第三十二話 「うーん…わかりました。それでは晩御飯はジャックさんに任せます。」
これにて1章完結です。
「本当に助かりました。ヒロシさん。」
革装備一式をまとった青年、ジャックは改めて礼を言った。
「力になれて本当に良かったです。」
今、俺たちは近くにあった岩に腰かけ話している。より正確に言うと3匹のブラックウルフの解体を待っている状態だ。
ジャック・ビーンはスポーツ刈りに近い金髪でちょっとやんちゃそうな顔立ちだ。緑色の瞳に少し焼けている肌。少し取っ付きにくいかなと思ったが話してみると普通の好青年だった。歳は15、6くらいだと思う。身長は低く、160㎝あるかないかくらい、だが横幅が広い。太ってるわけではなく単なる筋肉質なんだと思う。左肩付近に緑色のバンダナを巻いている。見た目より重い革鎧一式を普通に着ている、武器は右手に革製の盾と左手に片手直剣。頭に被っている兜も見た目は兜というよりは革のヘルムの方に近い。
「え!今日が冒険者になって初の実戦だったんですか。」
俺はジャックを助けた経緯を簡潔に話した。ついでに今日が初めての実戦だという事も伝えた。
「ええ、まあ。ですから、ちゃんと戦えて良かったです。」
「全然そういう風に見えなかったけどな。」
俺もちゃんと戦えて本当に良かったと思う。アドレナリンが出て興奮状態だったのか思ったより冷静に戦況が見えていた。倒したブラックウルフもHランクが相手できる魔物ではない。ブラックウルフは名前通り黒毛の狼だ。大きさも元居た世界の狼と変わらない。1体だったらそれほど脅威ではないが群れを成したブラックウルフは連携を取り獲物を追い込む。下級冒険者にとっては厄介な相手だ。
ちなみに、ジャックの冒険者ランクは俺より1つ高いGだ。半年くらい前に冒険者になったらしく、ついこの前ランクが上がったらしい。半年前だと俺がこの世界に転移したくらいだな。
「お礼と言っては何ですが俺が倒した分のブラックウルフの素材をあげますよ。」
「いやー、それは流石に悪いです。勝手に戦闘に割って入ったのは俺ですし。」
俺はジャックの申し出を遠慮した。確かに助けた形にはなるが基本他の冒険者の戦闘には介入してはいけない。セロは弱肉強食の世界だ、強者は全てを得、弱者は全てを失う。そして、冒険者は魔物を倒す事で生計を立てる仕事だ。自分自身を守れない冒険者は1人前とは言えない。
「じゃあヒロシさん、今日の夜とか予定あります?」
「いえ、特にないですけど。」
「だったらせめて晩御飯奢らせてください。おいしい飯屋知ってるんですよ。」
「うーん…わかりました。それでは晩御飯はジャックさんに任せます。」
俺はジャックの申し出を受け入れた。これも、何かの縁だ、折角知り合ったのだし一緒に飯くらい食べるのはいいだろう。聞いたところジャックもブィンドを拠点にしている冒険者のようで、俺と同じくソロでクエストをこなしているらしい。
俺たちは解体を終えたブラックウルフの素材を拾った。ブラックウルフ2匹の素材は牙が6個、毛皮が2枚、肉が数キロと骨が6本。
(なるほど、素材はこんな風に出るのか。少ししょぼく見えるが解体レベルが上がれば変わるのかな。)
骨の数とか絶対に少なくなっているがセロではこれが普通らしい。減った分は世界に戻ると考えられている。
(よく分からない理論だが、ファンタジーな世界なのだからこういうのもありなのかもしれない。ゲームのモンスターがアイテムをドロップしたようなもんか。)
取り合えず手に入れた素材をリュックに入れる。リュックがパンパンになった。流石に今日はこれ以上薬草採取しようとは思わなかった。
(十分採取したし。)
ジャックも今日はこれでブィンドに戻るらしい。荷物を整え一緒にブィンドに戻った。
この時、ジャックとの出会いが俺のこれからの冒険に大きく関わるとは知らずに。
きりがいいので次章まで少し休みます。