第三十一話 「いえいえ、俺はヒロシ・タナカです。」
初の戦闘シーン。
俺は覚悟を決めブラックウルフと男性に慎重に接近する。1番近い茂みに隠れもう1度覗いて戦況を確認する。騎士風冒険者は先よりだいぶ追い込まれていた。ブラックウルフは3匹で連携を取りながら確実に冒険者を追い込んでいく。ブラックウルフの見分け方は分からないので手前からA、B、Cとしよう。今、騎士風が対峙しているのがCでAが回り込もうとしてBは少し離れた位置にいる。
(狙うならBだな。)
ガサ
俺はダガーと木刀を抜いて茂みから飛び出した。俺に気付いたブラックウルフ達が驚いている。
「え!」
戦っている騎士風冒険者も驚いている。
俺はブラックウルフ達が驚いてる隙に一気に間合いを詰め狙い通り少し離れているブラックウルフBの横腹をダガーで刺した。
「ッグル。」
ブラックウルフBがもだえるが俺はダガーを抜いて数歩下がる。そこにAがかみつこうと襲って来る。俺は即座に木刀を逆さに持ち直し重心を落としAを待ち構える。
ガッ
木刀とブラックウルフAがぶつかる。
「っぐ。」
予想以上に軽かったので重心を起こしAを吹っ飛ばす。
次に横目で見えたブラックウルフBのかみつきを1歩後ろに下がりギリギリで避ける。すると、Bの頭部がちょうど目の前にあったのでBの顔に横からダガーを力いっぱい刺した。
「グルー。」
ブラックウルフBは鳴いたが俺はかまわず手首を捻り、さらにダガーを押し込みとどめを刺した。
止めを刺した同時に周囲を警戒する。ブラックウルフAは少し離れた位置にいる。Cと騎士風冒険者はまだ戦っていた。だが、一騎打ちになったからなのか形勢は逆転していた。徐々に冒険者の方が押し始めているこれなら大丈夫だろう。
「そっちの1匹は任せました。」
騎士風の冒険者に声をかける。
「はい。」
騎士風冒険者は短く答えブラックウルフCに片手直剣で切りかかる。
俺もダガーと木刀を構えなおしブラックウルフAと対峙する。
「グル。」
ブラックウルフAが威嚇する。
そしてAは飛び込んで前足を引き、ひっかこうとする。俺は木刀でAの顔に面を入れ、倒れたAの首筋をダガーで切った。首から血をたれ流れAはしばらくビクビクしていたがやがて動かなくなった。
騎士風冒険者の方へ目をやると丁度あっちも決着がついたらしい。片手直剣でブラックウルフCの頭部を切っていた。
戦いが終わったせいか一気に気が緩んでしまいその場に俺は座り込む。
(戦闘時はアドレナリンが出て興奮状態だったが、終わったら力が一気に抜けた。)
「はーはー。」
俺はゆっくりと息を整える。
騎士風冒険者は倒したブラックウルフに近づき手をかざしている。あれは、解体アビリティを使っているのか。解体アビリティは倒した魔物の近づいて手をかざすだけで発動する。俺も近くにあるブラックウルフAに手をかざした。
(解体。)
アビリティを念じて発動させる。すると、解体所要時間30分と書かれた透明板が出てきた。
(なるほど、これが過ぎたら解体終了か。)
俺は自分が狩った最初の魔物を見る。首からは血が出て舌が口からべろりと無気力に出て絶命している事がよくわかる。
「うっ。」
まじまじと見てたら急に気持ち悪くなった。茂みに走って吐いた。
「うぇー。」
さっき食べたサンドイッチを全て吐いてしまった。
(そうだよな。俺は今魔物を殺したんだよな。これが冒険者の仕事こういうのにも少しは慣れていかないと。)
「はーはー。」
「あの、大丈夫ですか?」
俺が吐いていると騎士風冒険者が駆け寄ってくれた。
「あ、はい。大丈夫です。」
俺は手で口を拭き振り向いた。
「そうですか。俺はジャック・ビーンって言います。危ない所を助けていただきありがとうございます。」
ジャックは革の兜を脱いで頭を下げてから右手を差し出した。
「いえいえ、俺はヒロシ・タナカです。」
俺も右手を出して握手した。
新キャラクタージャック・ビーン、モデルは童話です。