第三百三十一話 「ギャアーーー」
今月第四話。
(クソ、落ち着け。まずは状況整理だ)
敵の囲いを突破して、ウルス・メタルナックルと激突するジャックを目の前にして、俺はその場に立ち尽くしてしまった。
正直、二百メートル超えのウルスとジャックではあまりにも体格差がある。接近戦では体格差が時に技術を凌駕する。どれだけの技量をもってしても力にねじ伏せられる事もある。
「ジャック!」
「ここは任せるっす!」
ジャックと目が合った。瞳は死んでおらず、怒りに燃えていた。
(信じるしかない)
「あんたこっちだ」
リザードマンの戦士と共に二人の戦闘の横を通り過ぎた。増援の第二班はロンブス隊と同じでおよそ三十人。
ロンブス隊を全員拘束した後だったのが不幸中の幸いだ。
進路を妨害する手下どもを雑に蹴り飛ばして、一刻も早くドロシーとの合流を優先する。モモノスケが鎌使いと対峙している状況でドロシーは一人で戦っているはずだ。魔法で牽制、攻撃が出来ても稼げる時間は短いだろう。
かすかだがドロシーの赤髪が見えた。手下に囲まれ、その一人がドロシーの髪を引っ張り、組み伏せようとしている。
ドロシーとの距離はまだ数十メートル空いていた。途中には奴隷狩りの手下五、六人いた。
「…我の事はいい。あの子を助けてやれ」
リザードマンの戦士にもドロシーの状況が見えたようだ。横を走る戦士はその場に止まり、自分の背中を指さした。
「すまねぇ」
俺は除草のために少し後ろから戦士の背中を踏み台にした。空中闊歩をして上から手下の一人を蹴り飛ばした。
「ク…うちの魔導士にその汚い手で触れてんじゃねぇ!」
ちなみに空を壁のように蹴る空中闊歩は飛段と呼ばれる技らしい。
「ヒロシ…」
「悪い、遅れた」
近くの二人を切り倒したが背後から一撃を貰った。
「ガハ」
「炎初級魔法ファイヤーボール」
ドン
「グフ」
残りの一人の顔にドロシーの魔法が炸裂した。
ガ、カンキン
「ヒロシ殿すまぬ」
鎌使いとやり合っている最中のモモノスケは大声で俺に謝った。
あのモモノスケが余裕がないってことはあの鎌使い確かキリサメって呼ばれていたか、かなりできるな。
「予想外の事だ。誰のせいでもない。それよりもそっちは任せたぞ」
実際、増援は考えていなかった。ウルスは一体どうやってこの状況を知ったんだ。
「…ヒロシ、腕」
「ああ、無傷で倒せる相手じゃ無くてな。でも、きっちりロンブスは倒してきたぜ」
「ドロシーもボロボロじゃねぇか」
増援が来てからモモノスケと鎌使いが戦っている間、ドロシーはたった一人で耐えていた。
自分が捕まり人質にでもなれば戦況は一変する。
近づかれないよう時には魔法で牽制、時には杖で守ったのだろう。幸いにもドロシーに大きな外傷は見受けられなかった。
「ハアハア」
深刻なのはスタミナと精神面の方だな。ドロシーは後衛ということもありパーティーの中で一番スタミナが少ない。それに戦闘経験も俺達の中では一番少ない。長時間の戦いは思ったよりドロシーの精神とスタミナを削っていた。
「ギャアーーー」
悲鳴がする方を見るとリザードマンの戦士が槍で奴隷狩り数人を振り飛ばしていた。ビリヤードの球のように飛ばされた手下は他の手下にぶつかっていく。そして、モーセの海割りの如く俺達までの道が開けた。
いつの間にか四百話超えていた。




