外伝66 ジャックの騎士物語
今月第三話。
時間は少し遡る。
結論から言うと、ジャックとイザベラの対峙はとてもではないが戦いと呼べるものではなかった。攻防などは無く、ただジャックが一方的に攻撃を受けるのみ。
「ハアハア、あの時…突き放したはずなのに…なんで」
「…」
目の前には甲冑姿の幼馴染の姿。幼少の夢を叶え騎士となったジャック。かたや、犯罪に手を染め奴隷狩りとなったイザベラ。
鞭を握る手を見つめ、もう戻れないと決心するイザベラは攻撃の手を緩めない。
バチン
「ハア、ハア」
何故か攻撃する方がより疲弊しているように見える。
「な、何で反撃しないのよ。それとも何、騎士様は女を殴れないのかしら」
二人が対峙してからジャックは一度も攻撃を行っていない。反撃どころか盾も剣も抜いていない。ただ、イザベラの鞭を受けるのみだ。
ちなみにイザベラは鞭を二本持っている。一本は今使っている捕獲用のものでもう一本には穂先に刃物が付けられたものだ。
「…理由が無いっす。俺にイザベラと戦う理由が無いっす。俺はただ君を救いに来ただけっすから」
イザベラも部隊に入ってから一年、いくつも修羅場を経験してきた。部隊でも実力は上位のイザベラの鞭はけして軽くない。
証拠にジャックの顔は赤く腫れており、平然としているのがおかしいくらい傷ついている。
どれだけの痛みを伴おうともジャックは止まらない。ただ、実直に幼馴染に歩み寄る。
「…あたしにはもうここしかないのよ」
「そんなことはないっすよ。全然やり直せるっす」
「あんたにはわからない。夢を叶えて、今は楽しく仲間と冒険しているあんたには」
攻撃する方がたじろぎ、受ける方が歩み寄る歪な光景。
「楽しい事だけじゃないんすけどね。…だったら、話すっす。今度は絶対に最後まで聞くっすから」
「…」
鞭を振る手が止まる。男は歩みを止めない、そしてついにあと一歩まで近づくことが出来た。
「でも、あたしたくさん傷つけた。子供も大人もたくさんたくさん」
「うす。…これから償うっすよ」
ジャックは優しくイザベラを抱きしめた。
「ウァァァァーーー」
それはこれまでの自分がしてきて事、罪への意識。そして後悔だ。過去は変えられない、被害者達が許してくれることもないだろう。でも、生き続ける限り、苦しみ悔いる事だろう。それでも、償い続けるしかないのだ。
イザベラは涙を流し、鞭が手を放した。
カッポカッポ、ブルル
ジャックは遠目に馬車の一団が見えた。方向は皆がいる場所。
「イザベラ…あれって」
イザベラは振り返り、馬車から出てきた集団を確認した。
「…何…うそ!あれは第二の奴ら!」
「…増援すか」
仲間の危機を前にジャックはイザベラから離れる。ここからは騎士の仕事だ。
「イザベラはここにいるっす」
「え、ジャックは?」
「俺はパーティーの壁役っすから。行ってくるっす」
傷だらけの騎士はおてんば姫を置いて戦場に戻る。助けてくれた仲間を守るために。
少年騎士とお転婆姫物語




