第二十五話 「はい。助言ありがとうございます。」
もうすぐ1章終わり。
約半年前、俺は女神モドキにこの世界、セロに転移させられた。そして、この森の奥で大熊型の魔物ホワイトバックに襲われ、ケビンさん達に救われた。
(正直、あの時は死を覚悟した。)
ケビンさん達に助けられなかったら俺の人生はあの時に終わっていた。
そして、今俺は入り口付近にあるチナエ草の群生地を目指してその森に入っている。
(あれからもう半年か…時間が過ぎるのは早いな。)
ちなみに俺が女神モドキにこの世界に送られた時は4月の下旬だった。それから約半年がすぎたから今、元の世界だったら10月下旬か11月初旬だろう。前にも言ったかもしれないがシャルル王国にも四季がある。今は秋でもうすぐ冬にさしかかる頃だ。
10分くらい森の中を歩いてチナエ草の群生地にたどり着いた。入り口付近もあって魔物らしい魔物には遭遇しなかった。遭遇したのは小虫型の魔物と害のなさそうな鹿型の魔物だった。
群生地には他にもちらほら冒険者がいる。多分、皆俺みたいな駆け出し冒険者か下級冒険者だろう。
(薬草採取クエストなんて最低ランクのクエスト受ける冒険者なんて下級冒険者しかいないもんな。)
(そういや、受けられるクエストのランクって1つ上から下までだっけ。)
いろいろ考えながら俺も狙いのチナエ草を探す。チナエ草はピンクの風船みたいな花が咲く植物だ。四季に関係なく咲いてはいるが冬になると雪に埋もれて見つけにくくなる。採取方法は根っこを傷つけないように掘って根ごと抜くらしい。
俺はチナエ草らしき草を掴み鑑定アビリティを使う。鑑定Lv1は脳内で念じれば使える、ただし鑑定対象を自分の体で触れてなければいけない。
チナエ草
薬草
目の前に鑑定した薬草の情報が出た。アビリティレベルが1だったせいか単純な情報しか出なかった。レベルが上がれば出てくる情報も増えるのだろう。
(こういう所はゲームぽいんだよな。とりあえず、チナエ草に間違えないし採取しよう。)
鑑定はこういう時に役立つ。俺みたいにセロにも植物にもまだまだ知らない事が多い者にとっては鑑定は辞書にもなるし図鑑にもなる便利なアビリティだ。
スコップなんて便利な道具は持ってないので手で掘っていく。チナエ草を抜いて根っこに付いた土を丁寧に払ってリュックサックに入れた。鑑定と採取をあと4回続ける。
(よし、依頼のチナエ草5本採取完了。)
(時刻は午後3、4時頃かな。昼過ぎくらいにブィンド出たから。採取時間は1時間ちょいってところか。初めての採取だけど少し時間かけすぎたな。)
俺はここに来た道をまた1時間かけて歩きブィンドに戻った。門が閉まるまじかなのか外にはちょっとした列が出来ていた。
並ぶこと20分、やっと俺の番が来た。
「次の方。」
出る時と同じ衛兵がいた。ちなみに衛兵は外に2人、中に2人計4人いる。もし何かやらかした場合、衛兵4人がすぐさま駆けつけてくる。こう考えるとブィンドは結構安全な街だ。さすがシャルル王国第2都市だ。
「どうも。」
俺は冒険者カードを渡しながらぺこりと頭を下げた。
「君か。クエストはどうだった?」
相変わらず少し威圧感があるが俺の事を覚えててくれていた。
「はい。薬草を依頼通り採取できました。」
「そうか。では鮮度が落ちないようにこのままギルドに行くといい。」
衛兵は冒険者カードを渡してそう言った。
「はい。助言ありがとうございます。」
俺は冒険者カードを受け取り衛兵の言う通りギルドに向かった。
シャルル王国をシャルル国と書いてしまう時がある。