第二十四話 「はい。」
やっと外出。
マリナス商店を出た俺はとりあえず近くにあったパン屋で昼ごはんを買った。今日の昼ごはんはソーセージパン2つだ。パンを食べながら俺は南門に向かう。ブィンドには4方に門があり、衛兵が人々の出入りを取り締まっている。
(と言っても冒険者カードを見せるだけだけど。)
ちなみにこの世界に来たばかりの俺はもちろんIDを持っていなかった。当然、ケビンさん達は俺の手荷物を探っただろうが、IDなんかあるはずがない。
(俺の手荷物と言ってもパジャマ姿だからパジャマを脱がす以外なかっただろうが。)
その時は、ケビンさんが衛兵に口利きしてくれたらしい。上級冒険者にもなると衛兵からの信頼も厚い。もしケビンさんが衛兵に口利きしてくれなかったら俺はブィンドに入る事すらできなかったわけだ。
(まったく、身1つで異世界に放り込むって、あの女神モドキ次会ったら覚えてろよ。)
南門には2人の衛兵が門の左右に立っていた。ブィンドを出る人達のIDを1人ずつ確認している。南門は比較的にすいていた。並んで5分くらいで俺の番が来た。
「次の方。」
門の右側に立っている衛兵が俺を見て手招きしながら言った。
俺は冒険者カードを衛兵に渡した。
「はい。行き先は?」
衛兵はカードを受け取りながら尋ねる。衛兵は支給されている鎧を着て腰に剣を着けていた。声がかなり低く顔も少し怖い感じで威圧感がある。体格もがっしりしていて身長は190㎝くらいだ。
(門番役には少し威圧感が必要だ。人々からなめられないように。)
「ベーテの森です。クエストで。」
俺は行先と目的を手短に言った。
「なるほど、戻る予定は?」
「今日中にはここに帰ってくるつもりです。」
クエストによっては冒険者は何日も野宿する事もある。とは言ってもまだまだ下級冒険者の俺にはそこまで遠出するようなクエストはない。
「わかった。門は午後5時には閉める。帰還するならそれまでに。お気をつけて。」
衛兵はカードを返しながら言った。
「はい。」
(威圧感はあるけど、仕事は丁寧だったな。)
俺はカードを受け取って南門から外に出た。
そのまま街道沿いに南下する。この世界に来て初めての外出だ。
(今日は天気もいいな。街道沿いはあまり魔物が出ないらしいし、少し散歩気分だ。)
目的地のベーテの森はブィンドから南に歩いて1時間くらいある森だ。かなり広く奥に行けば行くほど強い魔物がいる。しかし、今日目当ての薬草は森の入り口付近に群生している。群生地の場所は以前ジルさんに聞いた事がある。歩いて1時間は遠いと思うかもしれないがセロの交通はあまり良くない。金があれば馬車に乗ったり、魔法を習得していれば魔法的な移動手段もあるかもしれないが、あいにく俺はお金もないし魔法も使えない。つまり、俺みたいな貧乏な一般人の交通手段は足だ。
歩いて1時間、目的地のベーテの森に無事についた。ちなみに俺がこの世界、セロに来た時、最初にいた場所もここだ。ベーテの森の奥に俺はいたらしい。
熱中症には気を付けよう。