第二十一話 「はい。その時はお願いします。」
装備屋の買い物終了。
悩んだ末に俺が選んだのは刃渡り15㎝くらいのダガーナイフ。
「これにします。」
俺は選んだダガーを指で指した。
「獲物はそれにするとして、あんちゃんそのままクエスト行くのか。」
おやっさんは俺の全身を見ながら言った。
「はい。そのつもりですけど。」
(防具買う金ないし。採取くらいなら出来るだろ。)
「はあー。ちょっと待ってな。」
おやっさんは深いため息をつきながらカウンター横にあるドアを開けて店のさらに奥に入っていく。店の奥には鍛冶工場があって、おやっさんは普段そこで武器や防具を製作している。
少し待っているとおやっさんが大きな木箱を持って戻ってきた。
「よいしょっと。」
おやっさんは木箱を俺の目の前に置きそれを開ける。
中に入ってたのは真っ黒のライトアーマーの装備1式だ。ライトアーマーとは騎士や守備が得意な職業が着るフルアーマーではなく、軽量化した装備だ。そのため、動きやすさメインに考えられている。しかし、フルアーマーに比べて耐久性は低くスピード重視の職業が使う装備だ。要するに俺みたいな忍者向きではある。
「こいつはな、中古品なんだ。先日売りに出しにきた奴がいてな。前にあんちゃんが冒険者に興味があるって言ってたから残しておいたのさ。素材はアイアンアント、ランクはシルバー。中古品って事で金貨1枚でどうだ。」
アイアンアントは大きな顎と酸を吐く事が特徴的な昆虫型の魔物で、外見は大きな黒蟻だ。
「金貨1枚!1枚でいいんですか?」
俺は値段にびっくりした。冒険者にとって防具は命を守る為の大切な装備だ。装備1式でシルバーでも金貨10数枚が必要だ。それが、中古品とはいえシルバーランクの装備1式が金貨1枚。
「それは流石におやっさんに悪いですよ。」
俺は断った。もちろん、欲しい。欲しいがこの値段で買ってしまったら俺は今後おやっさんに頭が上がらなくなってしまう。
「生意気な事言ってんじゃねえ!こういう時はありがとうございますって言って受けとりゃいいんだ。冒険者になった以上貰えるものは病気以外全部貰っとけ。」
おやっさんはジャンプして俺の頭を叩きながら言った。
「それに、俺はお前が活躍するって賭けてんだから。大物になって装備をじゃんじゃん買いに来い。がははは。」
おやっさんは大笑いした。
「はい!」
俺はおやっさんの優しさを素直に受け取ろうと思う。
(いつか、上級冒険者になって絶対この恩を返そう。)
俺はもう一度ライトアーマーを見る。
(うん?これって。)
ライトアーマーの胴の左胸あたりに黄色のマークが入っていた。雷のマークの表面に羽を広げ飛んでいる大鳥が描かれている。
「この紋章って。」
俺はこの紋章を知っていた。
「気づいたか。それはサンダーバードの紋章だ。勝手だがいれさせてもらった。」
「おやっさん…。本当にありがとうございます。」
俺は再度頭を下げて礼を言った。
「いいって事よ。んじゃあライトアーマーとダガーでしめて金貨1枚と銅貨5枚だ。」
俺は貨幣袋から金貨1枚と銅貨5枚を出しておやっさんに渡した。
「まいどあり。」
「ありがとうございます。」
俺は礼を言ってから後ろを振り返った。
「どうした。」
おやっさんが不審に思って聞いてきた。
「いえ、ただ誰かに見られている感じがしたので。誰もいなかったので気のせいだと思います。」
(今一瞬誰かが後ろでのぞいてる感じがしたんだけどな。索敵レベル1じゃ気のせいかもな。)
「そうか。装備を着ていくなら奥の工場で着替えな。」
「はい。わかりました。」
俺は買ったライトアーマーが入っている木箱とダガーを持って奥の工場に入った。工場の中は熱がすごかった。そして、作り立ての武器や防具がずらりと並んでいた。その中に木でできた武器が入ってる木箱があった。その中に木剣もあった。
(これサブ武器としていいかもな。)
俺は着替え終え木剣を持って工場から出た。
ちなみにダガーは腰あたりに装備した。
「おやっさん。これも売り物ですか。」
俺は木剣をカウンターに置いた。
「ああ。それは練習、素振り用だ。欲しいなら持ってけ。」
「いいんですか。」
俺は木剣を左腰に差す。
「今日は本当にありがとうございました。」
「いいって事よ。クエスト気を付けていくんだぞ。素材持ってきたら装備作ってやるよ。」
「はい。その時はお願いします。」
俺は装備屋を出た。次に向かうのは向かいにある薬屋だ。
次は外伝です。