第二百三十七話 「ヒロシは手を出さないでください。これは僕が受ける罰デス」
今月第一話。
ブィンド大洞窟から帰った翌日、リタ・ビーグルはこれまで行った盗難を自白するために衛兵の詰め所に出頭した。
シャルル王国での窃盗罪は十年以下の懲役又は金貨五十枚の罰金に処される。しかし、自首とその行為に及んだ理由が酌量すべき事情であったため減刑になった。さらに仲間達の証言と嘆願書、Aランク冒険者ケビン・スノーマンが保証人となることで執行猶予も付いた。
結果的に罰金、金貨三十枚と冒険者ランクのリセット、一年間の保護観察の減刑に至った。
「おはようございマス。朝ごはん出来てマス!」
その後、リタはファミリアサンダーバード預かりになった。拘束されたのは数日間のみでそれからはファミリアサンダーバードで生活を始めていた。ただ、居候させてもらうのは居心地が悪いのかファミリアの雑用を進んで手伝っている。まるで、セロに来たばかりの自分みたいだ。
ちなみに妹のデル・ビーグルも一緒だ。部屋も同室で、これからはより長く一緒の時間を過ごせるはずだ。
「うーん、結成当初よりだいぶ人数も増えたな。そろそろ…か」
朝の食卓でケビンさんが何かを考えながら呟いていた。
「…今日も行くのか?」
朝の雑用を終わらせ外出しようとしていたリタに俺は声をかけた。
「…はいデス。いつも言っていますけどヒロシがついてくる必要はないデスから」
「いや、今日もついていくよ」
ブィンド カフェ 旅人の憩い村
5月8日 11:00
バチン
店中に平手打ちの音が響いた。リタの左頬が赤く腫れる。平手打ちを放ったのは目の前の女性冒険者だ。
(今日で三組目だな。平手打ちか、まだ優しい方だな)
中には武器を抜く者までいた。一応、俺が後ろにいるおかげか大事にはなっていない。
「あんたなんて冒険者失格よ!」
青髪の女性冒険者はリタが置いた金貨袋を取り、カフェを出て行った。
(それでも金は取るんだな)
拘束が解かれた次の日からリタはこれまで騙してきた冒険者達に連絡して、犯していた罪を告白して謝罪していた。
先ほどの冒険者もリタが以前所属したことがあるパーティーの一人だ。
リタは盗んだ素材の額には及ばなくても金貨を袋に詰め、頭を下げ続けた。リタの話を聞いて、相手から簡単に許されるわけもなく今日のように暴力、暴言を吐かれる事がほとんどだ。
「ヒロシは手を出さないでください。これは僕が受ける罰デス」
(リタはそう言っていたが本当にやばい時は止める。そのためについてきているしな)
今年も残り2か月。