第二百三十五話 「いいんだよ、テントと道具の詫びだ」
今月第四話。
ブィンド大洞窟 上層
5月1日 14:00
「お!そろそろ入り口じゃないすか!」
この洞窟生活はたったの数日だったがかなり長い期間居たように感じる。
「ああ、やっと帰れるな」
「どうやらもうすでに噂になっているようだぜ」
「え!」
洞窟の入り口付近が妙に騒がしい。大勢の人が集まっているようだ。
(うわー、ずっと洞窟内にいたから外がまぶしいな)
「おい出て来たぞ、あれが深層を攻略した冒険者達だ!」
入口付近には記者が数組待機していた。どこから嗅ぎつけたのかは知らないがどうやら深層の事はパーティーメンバーも含めて外に伝わっているらしい。
(これはギルドやファミリアの皆にも知られているな)
「ゴホン、その通り我々モンストロがブィンド大洞窟深層をクリアした主力メンバーだだ」
ジェイが数歩前に出て記者達の注目を集めた。
「おお!深層はいったいどのような場所だったのですか?」
「宝は本当にあったのでしょうか?」
「番人がいる噂の真意は…」
矢継ぎ早に質問が飛び交っていく。まるで入り口付近が記者会見になったように見える。記者達の質問をジェイは丁寧に的確に答えていった。
「ほら、今のうちに行くぞ」
ジェイ達、パーティーモンストロの面々が記者の注意を引いている隙に俺達はすり抜けるようにその場を離れた。
「ちぇ、ジェイの奴ら好きなこと言いやがってずるいっす」
ジャックが羨ましそうに集団を見つめていた。
「だったら、今から戻ってあの集団に混ざってくるか。俺は勘弁だ。クタクタの状態で質問に答えられる気がしねぇ」
それにこれは事前に決めていた事だ。もし、入り口で記者達が待機していた場合はジェイ達が前に出て対応する。隙を見て俺達とヴァンレンス達がその場を去る。
ヴァンレンス達と俺達は大してマスコミに取り上げられる事に興味があまりない。
(人には得意不得意がある。まさか、ジェイがあんなにうまく返答し、立ち回れるとは思わなかった)
「おっと、忘れる前にこれを渡しとく」
ヴァンレンスから先端に赤色の魔法石が加工された杖を手渡された。
「これって…」
「ああ、魔導士の骨戦士が持っていたものだ。俺達には使いようがないからな」
「…いいのか、売れば結構いい値が付くと思うが」
使えなくてもどこかに売れば金貨数枚にはなるだろう。
「いいんだよ、テントと道具の詫びだ」
やっと帰って来れた。