第二百三十三話 「これは器具を持ち込む価値があるぜ。さっきの言葉は撤回させてくれ」
今月第二話。
ブィンド大洞窟 中層
4月30日 17:00
「今日はここくらいにしとくか」
深層から中層までをおよそ半日と少しで駆け上った。ここまでの道中大して苦戦する戦闘は無かった。
(今までの進行速度を考えれば凄まじいな)
俺達のパーティーは前衛四名、中衛二名、後衛二名、サポーター一名の構成だ。
(パーティーと考えたらかなり大所帯だけど)
「水汲んできたぞ」
ジェイとジャック、ギデオンが近くの水場から水を汲んできた。大人数の為必要になる水もその分増える。
拠点作りも野営に慣れている者が多いからかスムーズに進んでいた。
「お、ありがとう。そこに置いといてくれ」
「おいおい、まさか洞窟内で料理するつもりかヒロシ」
俺がエクストラポケットから料理道具を次々と取り出すところを見ながらヴァンレンスが口を出した。
「まあな、お前らに壊された器具もあるから簡単な物しか作れないけど」
俺は厭味ったらしくヴァンレンスに言った。
ちなみに下層で置いた貨幣袋はその後回収済みだ。騒動で見つからないかと思ったが意外に簡単に見つかった。
「う、それは…悪かった」
「そうっす、こっちはテントも潰されているんすよね」
ちなみに今晩はジェイ達のテントに入れてもらう。ドロシーとリタの女性二人は仲良く別のテントを使わせてもらうようだ。
「お前ら変わっているな。毎回料理なんて、それも器具まで持ち込んでいるとはな。いくらエクストラポケットがあるからって他に入れるものなんていくらでもあるだろ」
「うまい料理は士気を高めてくれる、これが俺の持論だ」
しかし、この人数で器具も鍋くらいしかないからな。作れるものも限られてくる。食材だけは道中で倒した魔物の肉が大量にあるからいいが。
(そうだな、よし、今日はあれにしよう)
「うっめぇ~。こんな事だったら干し肉なんて食べなければよかったぜ」
ヴァンレンスはシチューを煮込む時間に耐え切れず、晩飯前に干し肉をかじっていた。ヴァンレンスだけではなくジャックとドロシー、リタ以外は全員我慢できず何かしら口にしていた。
俺が作ったのはゴロゴロと大きめに切った肉を大量に入れたビーフシチューだ。野菜は貴重なので少ししか入れていない。
「俺はヒロシの料理のうまさを知っていたから何も食べなかったす」
なぜかシチューをパクつきながらどや顔をするジャック。
「!」
ジェイの一味も黙々と食べている。
『おかわり』
一同の満足顔を見られるだけで作ったかいがあったもんだ。
「一人ずつ順番だ」
「これは器具を持ち込む価値があるぜ。さっきの言葉は撤回させてくれ」
ヴァンレンスは何杯目かわからないおかわりを食べながら言った。
元の世界でも料理はしていたがこの世界に来てからは料理はエイラさんから教わったからな。だいぶ料理の腕が磨かれていたのかもしれない。
料理の力は偉大。