第二百二十六話 「逃げるにしても目の前の敵をどうにかする必要はあるだろ」
今月第一話。
紫色の核と空洞のはずの眼から赤い光が灯りゆらゆらと揺れている。暗闇の中から武装した骨戦士がゆっくり現れた。先ほどの大剣使いを合わせて六体。経年劣化で損耗した装備を見るにおそらく骨戦士になってから数十年は経ってそうだ。
生前はおそらく冒険者だった者達が俺達と同様にこの大洞窟を冒険し、この深層に行き着いた。
しかし、何かしらのアクシデントが起きてここで命が絶えた。数年経ちボーン兵としてアンデッド化して、この閉鎖空間で長年彷徨い続け骨戦士となった。それからまた何十年も経て、今や都市伝説として深層の宝を守る番人と呼ばれている存在になっている。
死後も埋葬されず目的もなく彷徨い続ける悲しき魔物達。
「…これはやばいデス」
ずっと岩陰で隠れていたリタがようやく言葉を発した。
「ああ、その通りだリタ」
骨戦士は前衛三体、後衛三体のバランスのいい陣形を取っている。俺達の左側に槍使い、中央にヴァンレンスの右腕を斬り落とした大剣使い。右に居るのは骨格的に生前ドワーフだった重戦士。
キン
「っ危ねぇ!」
重戦士の後ろにいる弓兵が飛ばした矢をどうにか投げナイフを投げて軌道をずらした。
(やはり後衛は厄介だな)
センター後衛に居る魔導士とその隣にいるのは損耗して分かりづらいが服装を見るにエイラさんと同じ僧侶だろう。
(僧侶が一体いるのは助かるな)
アンデット族の弱点である聖属性は僧侶が扱うほとんどの治療魔法に多少付与している。通常の攻撃魔法も使えるなら面倒だがあの様子を見るに支援魔法がメインだろう。
(あとは武器アビリティ杖と厄介なデバフ魔法を持っていないことを祈ろう)
「ウ、ウ~」
気絶していたレイルが目を覚ましたようだ。
「お!目覚ましやがったか。あと一秒遅かったら蹴り起こしていたところだぞ」
ヴァンレンスは悪態をついてはいるがレイルが起きてくれたことにホッとしているようだ。
「イタタ…すまない。ここは…いったい!お前…腕はどうした」
「ああ、下手打ちまった。ガハハ、参ったぜ。悪いが詳しい話は後だ」
「おい、ヒロシ・タナカ。後、ジェイも」
ヴァンレンスは俺とジェイを手招きする。
骨戦士はゆっくりと迫ってきている。
「どうした?」
「な、なんだよ。こんな所早く逃げようぜ」
「逃げるにしても目の前の敵をどうにかする必要はあるだろ」
この深層に都合よく逃げ場などがあるかは分からない。今の所俺達が落ちてきた穴くらいか。運よくそこを通った冒険者に声をかけてロープを垂らしてもらうか、それともドロシーに飛んでもらうか。どちらにしても時間がいる。
絵の力は本当にすごい。