第二百二十二話 「そういうのは早めに言ってくれ!」
今月第二話目。
オオミミズとの距離は約三百メートル、先ほどのスピードを見るに二十秒弱で駆け抜けてくる。
「おい、ジェイさんよ。まだここで俺達と殺し合うかそれとも休戦して共闘してあのオオミミズを倒すか」
俺は諦めてその場に立ち尽くしているジェイに目を向けた。
「倒すって、見ただろあの大きさと素早さ。怪我人だらけの俺達じゃあ…無理だ」
オオミミズのサイズは丁度道幅を埋め尽くしていた。横道に避ける以外にあの突進を躱す方法はない。怪我人を見捨てれば全滅は避けられる。だが、その選択肢は誰も持ち合わせていなかった。
「策ならある。誰一人犠牲にせずあの化け物を倒す方法が」
「!」
(作戦とは名ばかりの力業。ただし、俺達だけじゃあ足りない。どうしてもジェイ達の協力が必要だ)
「…わかった。こっちも腹を決めた。一時共闘しようじゃないか」
「ッチ、あのでかぶつまっすぐこっちに動き始めたぞ」
「ドロシー、魔素は…よし、練っているな。炎魔法だ。飛び切り火力があるやつを頼む」
後ろにいるドロシーを見るとすでに目を瞑り、静かに魔素を練っていた。
(流石だな。しっかりと自分の役割が分かってやがる)
「でも、いいの?」
ドロシーは穴だらけの通路を見渡す。
「ここで出し渋ってもオオミミズの餌になる。まずは前方の敵を倒すだけに集中しよう」
「分かったわ」
空気の方はおそらく問題ないだろう。しかし、洞窟が持つかは分からない。最悪、下に落ちるかもな。
「それで策はなんだ」
戦闘狂のヴァンレンスはこの危機的状況でもオオミミズを見つめながら舌なめずりしていた。
「やることは簡単。ドロシーの魔法でオオミミズを焼き殺す」
ただ、それに必要なのは魔素と少しの時間だ。
「ジェイの所の魔導士のあんたは残っている魔素をあるだけドロシーに渡してくれ。そして残りの俺達は時間稼ぎだ」
ぼうしを深々とかぶりなおした魔導士はコクリと頷きドロシーの後ろに回った。
この間にもオオミミズはどんどん迫ってきている。残り二百メートルくらいか。
「時間稼ぎって何すんだよ。前衛職の俺達に飛び道具はないぞ」
「分かっているよ」
俺はエクストラポケットからこれまで作った薬品の数々を取り出した。
「これは毒薬の失敗作どもだ。これを投げろ!」
あの体に毒が回るのには時間が足りないだろうが動きを少しでも阻害できれば十分だ。
「ヘ~、んじゃあ、俺はング…これだ」
ヴァンレンスは大岩を持ち上げ、オオミミズめがけて投げた。重さでオオミミズには届かなかったがちょっとした障害にはなるかもしれない。
ボン
「うわ、おい!投げたら爆発したぞ」
可燃性の薬品がなにかしらの刺激で発火したようだ。
「ああ、可燃性のものもあるからな気を付けてくれ」
「そういうのは早めに言ってくれ!」
弓はオオミミズには有効打になりそうにないので使わない方向になりました。