第二百二十一話 「ハハハ、終わりだ。俺達はここで」
今月第一話。
「ふ、ふざけるな。何をしているお前ら!お、お前らにどれだけ金を積んだと思っている!」
この戦いジェイが最初から本気でリタを倒そうとしていれば俺達に勝ち目はなかった。
だが、ジェイが助っ人二人を信頼して時間をかけてリタをいじめたおかげで俺とジャックはレイルとヴァンレンスを倒す事が出来た。
「それは悪いと思っている。生きて帰れたら貰った報酬は返すよ」
ドン
そろそろ決着を付けようとした時、少し離れた所の壁が崩れてそこから赤黒い何かが現れた。
「!」
赤黒い魔物は空間を悠々と横切り、壁に衝突するかと思いきや壁を抉りそのまま直進した。
「な、何すか今の」
「…オオミミズだな」
現れたのは確かに大洞窟下層に生息する魔物、オオミミズ。
しかし、問題なのはそのサイズとスピードだ。
オオミミズ:西大陸の地中に住む魔物。雑食でほとんど食べられないものはなく、呑み込んだものから消化液で溶かし栄養を吸収、それ以外を排出する。体のほとんどは水分で出来ているため、雨の日は体の一部を地上から出すことがある。
眼は退化していて、ほとんど見えないが嗅覚と触覚で周囲の環境を感じ取る…etc
「見れば分かるがあんなでかいのは初めて見たぜ」
通常の大きさは体長約五メートルくらいだが遭遇したのはその倍はあった。
突然の魔物の出現で皆が呆然としている。
オオミミズは土も食べる雑食の魔物だ。この大洞窟はいわばオオミミズの食卓。出会った魔物を生きたまま飲み込み食べる怪物。
ミシズシミシ
今度は上から地中を突き進む音がする。
「!」
俺は前へ走り出した。
(やばい、この音から推測するに奴の狙いは)
「おい、あんたも早くこっちに走れ」
俺にはオオミミズの味覚がどうなっているかは分からないが仮に土以外の餌があればどうするだろう。
土が美味しいかどうかはさておきたまには味変をしたいと思うかもしれない。
寝ている槍使いを蹴り飛ばしてシーフのローブを掴み、引きずるように後ろに投げた。
ドン
天井が崩れ、先ほどのオオミミズが口を開けて降ってくる。
「間に合え!」
前に全力でヘッドスライディングして、間一髪のところでオオミミズの突撃を避けた。
「ハアハア」
通常の個体はあそこまで速くない。移動速度が遅いため討伐ランクもDになっている。まるで洞窟内で暴れる食人列車のようだ。
「ヒロシ・タナカ、ありがとうよ」
ヴァンレンスが差し伸べた左腕を掴み、立ち上がる。
「嘘でしょ」
ドロシーが通路の奥の方を指さす。まるで助走をつけるようにオオミミズがいた。
(早いもうUターンして戻ってきたのか)
どうやらあのミミズは完全に俺達を餌と認識したようだ。
カラン
「ハハハ、終わりだ。俺達はここで」
ジェイは諦めたように持っていた西洋剣を落とす。
巨大オオミミズのサイズは通路を丁度塞ぎ込むほどだった。このままあのスピードで進まれると俺達に逃げ道はなくなる。
横道に逃げる手もあるが戦闘後の怪我と疲弊した状態ではいつか捕まるだろう。
最近疲れが残っているのか中々ペースが上がらない。