第二百二十話 「旦那すまねぇ。この戦い俺達の負けだ」
今月第五話。
ヒロシ・タナカVSレイル・ランドローバー
相手は格上、全身傷だらけそれでも俺は立ち上がる。
(これはまだ完成していないし、対人戦には使わないつもりだったんだがな)
「電光石火!」
高速移動からの双剣をいとも簡単に避けられる。
(初見ですら届かなかったんだ。二度目が届くわけがないな。それに…)
わざと浅めに踏み込んだ。目の前で双剣を捨て視線を誘導する。右足を軸にがら空きの左腹にミドル蹴りをいれた。
ガシ
「!」
ジャガーマンはそれすらも受け止めた。左足はガッシリと腕でホールドされ抜けない。
右足を払われ、バランスを崩されマウントポジションを取られた。目の前には獲物に食らいつく肉食獣の大口があった。
(狙いは首筋…だよな)
態勢を崩しながらも右腕を無理やり間に入れる。受け身を捨ててまで片腕をねじり込む。
ガキン、バキバキ
しかし、レイルは止まらなかった。アーマーごと右腕を嚙み砕かれる。
(痛って~。まじかよ、獣人の顎どんだけ強いんだよ)
バキ
奥歯に仕込んだカプセルを噛み砕き、液体を目の前に吹きかけた。
(毒霧!)
「グワァァー、目が目が」
流石に獣人もこれには驚いたようだ。マウントポジションから立ち上がり、目をこすりながらそこらをふらついている。
プロレスでたまに見かける毒霧には大きく分けて二種類あるらしい。俺のように奥歯にカプセルを仕込むかゴム風船などに液体を入れる方法だ。毒霧も粉末や食用色素などが存在するらしい。
カプセルの方が仕込められる量が限られるため相手に十分接近してもらわないと当たらないリスクがある。
「安心しろ、毒は入ってない。味は最悪だがただの野菜ジュースだよ!」
無防備な腹に全力で蹴りを入れた。今度は手ごたえ十分だ。槍使いが倒れている付近までレイル・ランドローバーは吹っ飛んでいった。
(カプセルにはいずれ本物の毒を仕込むつもりだ。そのためには毒に耐性を持たなくてはいけないが)
「ハアハア、いてて、右腕はしばらく使えないな」
さすがにもう立ち上がってきそうにない。
「…嘘だろ、レイル。てめぇー」
激昂する大男に近づいている脅威を教えるためにジャックを指さした。
「さすがによそ見が過ぎるっすよ」
「アン!ッチ、さっきより少し助走があるからって変わらねぇよ」
ドン
「シールドタックル」
ジャックは一直線にヴァンレンスに突っ込む。
「二度も同じ技が通じるか」
「!」
ヴァンレンスの拳は正確にジャックの大盾を殴り飛ばした。だが、吹き飛んだのは大盾のみ。
衝突の直前でジャックは盾を前方に投げた。盾を身代わりに死角からジャックが現れる。
隙を逃さず片手直剣をヴァンレンスの首元に当てた。
「知らなかったんすか俺のメイン武器は剣すよ」
これでジャックの勝ちが決まった。
「ック、参った。煮るなり、焼くなり好きにしろ」
ヴァンレンスは両手を上げ、その場に座り込んだ。
「な!何をしているお前達」
一番驚いているのは雇い主のジェイだった。
「旦那すまねぇ。この戦い俺達の負けだ」
戦況は逆転していた。後は俺とジャックでジェイを倒し、ドロシーが相手の魔導士に勝てば終わりだ。
次回でジェイ達とヒロシ達の戦闘は終わりです。