第二百十八話 「まあ、そう言うなってお互い楽しもうぜ!」
今月第一話。
「あまり調子に乗るなよ!ここはブィンドじゃねぇぞ大洞窟の下層で何が起きても誰も助けに来ねぇぞ」
冒険者同士の争いはご法度。それは表だけのものだ。実際、小競り合いは日常茶飯事で起きているし、今回のような拉致まではあまりないが盗み程度ならする冒険者もいる。
「リタはもう俺達の仲間だ。謝罪と盗んだものを返すだけじゃ足りないなら。仕方ねぇよな」
謝れば済むとは思わないしけじめは必要だと思う。だが、仲間が傷つけられるのを見過ごすことはできない。
ジャックとドロシーにアイコンタクトを取りお互いの相手を共有する。
ジャックは戦闘狂、俺は静殺手練れ二人は俺とジャックで抑え込む。
ドロシーには後ろにいる魔導士を相手してもらう。魔導士同士の戦いがどのようなものかは俺にはわからない。ただ、洞窟内で炎魔法は出来るだけ使わないように伝えた。
「リタ、時間稼ぎだけでいい護身術でジェイを抑え込めるか?」
俺は小声でリタに話しかけた。リタは短く頷いた。
四対四、槍使いが起きる前に終わらせる。
「何ごちゃごちゃ話している」
「どっちも引かないならやりあうしかないよな!」
戦士のヴァンレンスが一気に詰め寄ってきた。
ガキン
鉄の拳をジャックが受け止めた。
「グ!まあまあ、そんな焦らずにゆっくりやりましょうよ」
ジャックは片手直剣を横に振るがヴァンレンスは後ろに飛び、距離を離した。
「ヘ~、俺の拳で倒れないか。いいね、ますます気に入った」
戦士がジャックに意識を取られている間に俺はジェイの方に近づく。
ガキン
俺の双剣を獣人のシーフ、レイルが止めた。
(嘘だろ、こっちは双剣だぞ、素手で止めるかよ。獣人の爪は鉄と同等ってか)
「悪いが雇い主を倒されると困る」
「ヘー、そんな声だったのか。てっきり話せないかと思ったよ」
「なめやがって!まずはリタ、お前を八つ裂きにしてやる」
ジェイは腰に差してある西洋剣を抜いた。
相手は格上だがこのマッチアップ以外選択肢が無かった。どうしても前衛職の戦士はジャックが止めるしかなく、動きの素早いシーフは俺が対処せざるを得ない。
そうなると戦闘力がほとんどないリタは自分の身を守るのが精いっぱいで時間を稼ぐほかなく。ドロシーは残った魔導士を相手にしてもらう以外なかった。
最初の一人が倒れた側が負ける。
「いいね、いいね強い奴と戦える。だからこの仕事はやめられねぇ」
「何が強い奴すか。どう考えてもそっちが格上で弱い者いじめっすよ」
「まあ、そう言うなってお互い楽しもうぜ!」
やっと戦闘開始。