第二百十七話 「俺はこのパーティーのリーダー、ヒロシ・タナカだ!」
今月第五話。
目の前にいる大男の拳が振り下ろされる。
「!」
俺はドロシーをお姫様抱っこしたまま後ろに飛び避けた。ついでにジャックとリタとも合流する。
「ドロシー、降ろすぞ」
「え、うん」
(褐色の肌に顔の傷、そして灰色の髪…)
「いきなり、ずいぶんな挨拶だな戦闘狂」
(厄介だな。一人を落としたがいつ起きてくるか分からない。話し合いで済めばいいが…)
「お!俺のこと知ってんのか」
「ヒロシ、知り合いっすか」
「いや、ただあの助っ人二人は名のある冒険者だ。大男の方はヴァンレンス・スピリッツ、二つ名戦闘狂名前の通り戦闘好きのイカレた奴って噂だ。そして、ローブで素顔を隠しているが隣にいるのはおそらく相方のレイル・ランドローバー。二つ名は静殺、どちらもDランク冒険者だ。ジャックも拠点にしている地域の有名冒険者はピックアップしとけ」
状況はこちらが圧倒的不利、相手の二人は格上な上に戦闘できる人数にも差がある。
「リタちゃん?」
気付いた時にはリタは前に進み出て白いポーチから袋を取り出し、床に置いていた。
「申し訳ございませんでした!これは皆様から盗んだものデス。お返ししマス。これでどうか」
リタは頭を地面にこすりつけて土下座した、出来るだけの謝罪と誠意をもってこの場を収めるために。
大体のいきさつは読めてきた。本来はリタを誘拐する予定だったが居なかったためドロシーに人質を変更。運良ければリタもついてくるし、ついてこなくても俺達からある程度の金品と交換できれば割には合う。
(ここが大洞窟の下層なのもここまで降りてくる冒険者が少ないため、争いになってもいいって腹か)
最悪事故に見せかければいいとでも思っているのだろうな。
「リタ…」
ドロシーは相手から聞いているかもしれないがジャックはまだ状況が掴めていなさそうだ。
「ハ、アハハなんだそれは!それで俺達が許すとも。足りねぇよ!来い!けじめを付けさせてやる。サポーターが調子乗ったことしやがって!両耳くらいは覚悟しろよ!」
「な、てめぇら…」
俺は飛び出そうとするジャックを制止する。
「ジャックさんいいんデス。これは僕が招いた種デス。自分のしてきた事の償いは…しないとデス」
リタがしてきたことには同情する点はあれど犯罪には間違いない。それは一生リタ自身を苦しめることになる。
「その通りだな」
「ヒロシ!」
ジャックが俺の胸ぐらを掴む。そのまま殴り飛ばす勢いだ。
「たとえどんな理由があろうとも仲間を裏切り、盗んだことは事実だ。起こした行為に対して責任は持たなくてはいけない」
「ほう、分かってるね~。そういうことだ。お前達は帰っていいぞ迷惑かけたな」
それでも仲間が傷つけられるってわかっていながら引き下がる事は出来ない。
「ジェイさん謝罪と返却だけじゃあ…足りないか。だったらこれでどうだ」
俺はエクストラポケットから金貨が入った袋を地面に置いた。少ないが俺が持っている全財産が入っている。
「ああ、足りないね。全然足りねぇ」
助っ人が増えただけで随分と態度を変えやがる。
「これでもそっちにつくのか?」
俺は助っ人の二人へ顔を向けた。ヴァンレンス側が引けば状況は逆転する。
「ああ、そうだな。状況的にこっちが悪役に見えるが一応雇い主なんでな」
鋼鉄のナックルを構えながらヴァンレンスは笑みを浮かべた。
(ッチ、戦闘中毒者め)
「これで引けないなら仕方ないな」
「あん?」
「確かにリタの行いは褒められたことじゃない。ただし、そっちもうちの仲間を攫い傷つけた。さらにサポーターをこれから痛めつけようとしている。けじめを付けるってんならそっちもだろ!」
俺はずっと我慢していた。
(確かに発端はリタだが、それで何で俺達のテントが壊されドロシーを攫われなきゃいけねぇんだ)
「まじかよ。戦況考えて話せよ。なんなんだよお前は!」
「俺はこのパーティーのリーダー、ヒロシ・タナカだ!」
リーダーの自覚。