第二百十六話 「え!キャ」
今月第四話。
俺の秘策は新たに習得したアビリティの忍術だ。折角、職業として選んだのに今まで忍者らしいアビリティをほとんど取ったことが無かった。
アビリティ忍術は自分に最も適した忍術を一種類習得出来るものだ。俺に最も適した忍術は影遁だった。名前の通り影を操る術だった。
影を操ってどうするんだと習得した時は思っていたがこれがなかなかな利便性の高いアビリティだった。
「ヒュー、ようやくヒーローのお出ましか」
聞き覚えのある声にあの格好って、それにあの魔導士と槍使いもどこか見覚えがある。
「ドロシーを返してもらうっすよ」
「ジャック、来てくれたのね」
「!まさかあなただったとは…ジェイさん」
(ジェイって確か…あの路地裏の!いや今はドロシーの救出に集中しよう。タイミングを見逃さないように)
「お前達って…路地裏の三人じゃないすか」
相手の五人中三名は路地裏でリタをカツアゲしようとしていた冒険者達だった。
「ヘヘヘ、覚えてもらっていて光栄だね」
五人ともジャックとリタに集中している。
(やるなら今だな。シャドウウォーク)
俺は自分の影に沈み、自身の影としてゆっくりとドロシーの方へ近づいていく。アビリティ忍術レベル一で習得可能なシャドウウォークは自分の影に潜み、移動することが出来る。ただし、影に攻撃が当たれば自分にもダメージが出る。
ドロシーは手足を縛られた上に近くの獣人に腕を捕まれていた。猫型獣人の装備は俺と同じライトアーマーで武器の方は素手のようだ。
(ローブに暗器が隠されている感も知れないが…爪がドロシーの首元に届く前に倒さないとな)
影移動のおかげで隠密行動がだいぶ楽になった。欲を言えば気配遮断系のアビリティも併用して使いたかったがレベルポイントが足りなかった。
「ああ、女魔導士は帰してやるよ。あともう一人の忍者が姿を現したらな!」
(ッチ、ばれたか。だが、少し遅い)
相手の剣士が俺に気付く前にすでに近くまで移動していた。シャドウウォークから飛び出て、双剣の柄頭でドロシー近くにいる二人の首元を強打した。
ドン、ドン
「双打割り!」
隙だらけの槍使いの方は完璧に決まったが獣人の方は直前で気付かれたせいで角度がズレてしまい浅くにしか決められなかった。
「え!キャ」
それでも攻撃の勢いそのまま空中で体勢を崩して倒れるドロシーを抱っこして、相手の一陣をすり抜けた。
ズシャザザザ
空中で横に反転したので相手に正面を向く形になった。丁度立ち止まった場所の目の前に大男と少し後ろにリタに詰め寄っていた剣士がいる。
新アビリティ忍術は人それぞれ扱える術が変わります。