第二百十四話 「…ありがとう、頼む」
今月第二話。
「これはダメだな。完全に真ん中からポッキリいってる」
俺は壊されたテントのポールを手に取り、念のためエクストラポケットに仕舞った。
(クソ、ケビンさん達から譲ってもらったものなのに)
「料理器具は洗えばまだ使えそうっす」
おそらくもうここには戻ってこないだろう。荒らされた拠点から使えそうな物だけを最低限拾い、ドロシーの捜索を始めた。
「どうだ、リタ匂いで追えそうか」
クンクン、クンクン
「多少臭いが薄れてきていますが追えマス」
まるで警察犬のようにリタは洞窟の壁や床などを匂ってドロシーの痕跡をたどる。
「よし、追うぞ」
リタには匂いをたどる事に集中してもらい、遭遇した魔物は俺とジャックで対処する。光源であるランプは後列にいるジャックの腰に引っ掛けている。
当然、魔物との遭遇は出来るだけ避ける形で追っている。
「…それにしても、一体何者なんすかね」
「さあな、冒険者間での争いごとは基本的に禁じられている。ギルドにチクられるリスクまで取って他のパーティーに喧嘩を売る奴らはあんまりいないと思うがな」
とはいっても先日のパーティーのようにちょっとした事で小競り合いはよくあることだ。ただ、今回のように誘拐までするのは度が過ぎている。
ドロシーはすでにファミリアサンダーバードの一員だ。下手すればギルド、ファミリア間の問題になりかねない。
(俺達に恨みを持つものの犯行か。ギルドオルトロスのパーティー…はおそらくないだろう)
先日ギルドマスターが直接ファミリアまで訪れて謝罪してきた。次に俺達に手を出したらそれこそ自分達のギルドに泥を塗る行為だ。あいつらプライドだけは高そうだったからな。
「よいしょっと…匂いはこの先まで続いているデス」
リタが指さした横穴は下に続いていた。
「…この先って」
「ああ、下層だ」
中層のどこかなら話はまだ簡単だが下層となるとこのメンバーでは少し厳しい。
(元々ドロシーの魔法込みで大洞窟攻略できる見込みだった。自身を守る護身術があっても下層の魔物相手にどれだけ通じるかは分からない)
ここまで大して魔物と遭遇しなかったのはリタのルート取りのおかげだろう。しかし、これ以上は無理強いできない。
「…ジャック、少し予定より早いが下層に降りるか」
どのみち下層には降りる予定だった。ここは早まったと考えてジャックと二人で進もう。
(ドロシーを見捨てる選択肢はない)
「フ、そうすね。大切な仲間が待ってるすから」
「リタはこ…」
俺はリタに礼を言ってからジャックと共に下層に降りようとした。
「僕もついていきマス」
しかし、リタは言い切る前に俺をまっすぐ見て言い放った。
「いいのか?」
下層は危険な場所だ。万全な準備をした上で進む予定だった。
「はい、それに僕の鼻が無かったら効率よく追えないでしょ」
「…ありがとう、頼む」
リタの優しさに甘えてしまった。
(こうなった以上絶対に全員で地上に戻る。それがパーティーリーダーである俺の仕事だ)
最近スランプ気味。