外伝44 孤立に援軍待ち
今月第一話。
それは唐突な出来事だった。ヒロシの水汲み遅いねなんてジャックと談笑していたら何処からかけむり玉を投げ込まれた。
目の前が真っ白になり、最初は何が起きたのか分からなかった。誰かに襲撃された事に気付くのに数秒、杖を手に取るのに数秒。
魔法を放つ前にフード姿の男達に捕まった。
「この、グワ」
目の前でジャックが投げ飛ばされテントに突っ込んでいく。
「あんたたち何者!…ウ」
何かの薬を染み込ませた手ぬぐいを口に押し付けられ、そこからの記憶がない。
「…ジャック、ヒロ…シ」
「ドロシー!グワー!!!」
「う…うーん」
「お!起きたか」
目の前に顔の左側に大きな傷を持っている目つきが悪い褐色男性がのぞき込んできていた。
「キャーーー!」
「これはヴァンレンスが悪い。起き抜けにお前の顔が目の前にあったら誰も叫ぶわ」
「わるい、わるい。…あー、あと両手両足は縛らせてもらっているぜ」
手足をロープで縛られ身動きが取れない。相手は目視で五人。場所はおそらくブィンド大洞窟の中だろうけど中層でも上層でもなさそうだから、下層のどこかかしら。
「あんた達誰?」
「誰とはひどいな。つい先日会っただろ」
男達はローブを取り、面をさらした。
「…あんた達」
二人は見知らないが残りの三人は知っていた。路地裏でリタをカツアゲしていた冒険者達だ。
「あん時は世話になったな。ニャハハ、まさかあの後お前達がリタとパーティーを組むとは思わなかったぜ」
西洋剣を腰に差している狐顔の男性がニタニタと笑った。
「そう睨まないでほしいです。僕達はただリタに仕返しが出来ればいい。いうなればあなたはただの餌だ」
緑髪のイケメン男性が水筒を近くに置いた。魔導士ぽい男性は帽子を深くかぶって離れた所で周りを警戒していた。
「ああ、リタさえよこせばあんたは開放する。最初っからリタを攫うつもりだったんだがな」
要はリタの代わりに私が攫われったって事か。それにしてもこの狐顔ムカつくわね。絶対後で引っ叩いてやるんだから。
「リタが何をしたっていうのよ!」
「ニャハハ、まじで言っているのか。お前達まだリタの正体に気付いていないってか。これは笑える」
(どういう事?)
「いいぜ、攫ったついでに教えてやるよ。あいつの正体はな…」
狐顔はペラペラと話し始めた。リタが泥棒で冒険者のパーティーに入っては報酬や素材をごまかし、仲間達を騙していたことなど。
「そう、あの子にそんな闇が…」
恐らくその事にはヒロシは気付いているはず。土ゴブリン戦が終わった後ヒロシとリタの様子が何か怪しかったし。
「アハハ、ドン引くよな。俺達はリタが盗ったものを取り返したいだけだ。そのために強力な助っ人を雇ったんだから」
顔の左側に傷がある大男と猫系の獣人が助っ人。敵は前衛職が三人、魔法職が一人、獣人はおそらく盗賊系の職業だろう。
助っ人の大男と獣人が一番やばい感じを醸し出している。
「でも、あいつら下層のここまで来られるかな」
「来るわよ。あいつらは絶対に来るわ」
ゴールデンウィーク最終日。