第二百十三話 「もちろんす。この借りは絶対に返すっす!」
今月最終話。
ドン、ガラガラ、バシャ
目の前の惨状に持っていたバケツから手を放してしまった。バケツに入っていた水は盛大に辺り一面に飛び散っていく。
テントは潰され、たき火の周りに置いていた料理はバラバラに飛んで地面に散らばっていた。
(一体何があったんだ)
「う…うう」
「ジャック!大丈夫か、何があった」
潰れたテントの中からボロボロ姿のジャックが這い出てきた。
「クソ、誰がこんなことを。…ゆっくり飲め」
エクストラポケットからポーションを取り出し、ジャックの頭を支えてゆっくり飲ませた。
「これは…一体何が」
少ししてリタが戻ってきた。
「分からねぇ。ドロシーの姿も見当たらないし」
「う…ドロシーが…」
ジャックは意識があるがまだ話せる状態ではなかった。
「と、とりあえず片付けるデス。ヒロシさんはジャックさんを見ていてください」
「もう、大丈夫っす」
暫くしてジャックが起き上がった。まだ完治はしていないが話せる状態までには回復しているようだ。
「ジャック、ここで何があったドロシーはどうした?」
「突然だったす。いきなりフードを被った男達が襲ってきたんす。俺とドロシーも反撃はしたんすけど。奇襲もあってそのまま…すまないっす」
男達の正体と動機が気になるがまずはドロシーだ。聞いた様子だと突然の襲撃でどうしようもなかったのだろう。
「ドロシーはそいつらに連れていかれたってことか」
「うす、投げ飛ばされた後ドロシーが連れていかれていくところを見たっす」
「クソ!」
(どうすればいい?ドロシーを助けに行くのは絶対だ。だが、この入り組んだ大洞窟でドロシーを見つけるのは難しい)
「ドロシーさんを助けるに行くデス?」
「当たり前だ。仲間だからな。だが場所が分からねぇ」
敵の正体も動機も今はどうでもいい。まずは居場所を突き止める方法を探さないと。
「ドロシーさんの場所なら分かるかもデス」
「え?」
「ヘヘヘ、皆さん僕が獣人とヒューマンのハーフだってこと忘れたんデス」
リタはどや顔で自分の鼻を指さした。
「いや、でも…出来るのか?」
「ドロシーさんの臭いはもう覚えていマス。少し時間が掛かるかもしれませんが追いかけることは可能デス」
ドロシーの居場所さえわかれば後は動くだけだ。
「それにこれからの働きで返せって言ったのはヒロシさんデスよ」
リタはジャックに聞こえないように俺の背中越しに小声で話した。
「…頼む」
「お任せを」
リタは早速周囲の臭いを嗅いでいった。
「ジャック、動けるか」
「もちろんす。この借りは絶対に返すっす!」
当たり前だ。仲間を奪われて、傷つけられて黙ってられるか。
(絶対助けるから待っていてくれドロシー)
奇襲されるとパニックで数十秒まともに動けないらしいです。