第二百十二話 「ああ、それだけだ。もし、自分で思うところがあるんだったらこれからのサポーターの働きで返してくれ」
今月第四話。
ブィンド大洞窟 中層 水場
キラーアントに土ゴブリン等々の魔物を倒しながら中層を潜っていく。中層には上層にある苔のような光源はないが全くの暗闇ではない。薄暗闇というべきか松明とランプがあれば攻略には支障が出ない。
「お、水がないな。ちょっと水汲んでくるわ。ドロシー、ランプ貸してくれ」
「はい」
ランプの上部には金具がついてあり腰のベルトに引っ掛けることが出来る。
「じゃあ、行ってくるわ」
水場はテントを張った場所から近く、坂を下りて少し歩いた所にある。
(あと数日で下層に辿り着けそうだな。今回は下層まで行くかそれとも戻るか。今の勢いがあったら下層でもうまく行けそうだけど)
水を汲みながら今後の予定を考えていく。俺の背後から足跡を消しながら忍び寄る影があった。
「そろそろかなとは思っていたけど。予想より早いな」
「僕の正体に気付いていたのデスね」
背後に立っていたのはリタだった。ただし、いつもの可愛さ満点の姿は無く、俺の一挙手一投足を見逃さないように睨んでいた。
(全く、女の子は少し雰囲気が変わるだけで別人に見えるんだから怖いな)
「リタ・ビーグル、二十歳。冒険者になったのは一年前。両親はともに他界しており、病弱の妹を持つ」
エクストラポケットから情報屋から買い取った書類を取り出し、軽く読み上げた。
「やめろ」
「冒険者になってからはサポーターとしてパーティーを転々としており、ブィンドに来たのは一か月前。冒険者の荷物や報酬を盗んでいる噂がある」
俺はそのまま読み進めていく。盗みの手際からおそらく冒険者を始める前からコソ泥のような事はしていたのだろう。
「やめろ!」
「家族の事は本当だが全く戦えないわけではないだろ。自分の身を守る護身術くらいは出来るだろ。その後ろに隠している小刀が何よりの証拠だ」
リタは諦めたように背中から隠し持っていた小刀を出した。
「いつから僕が怪しいと思っていたんデス?」
「最初からだ」
「僕何かミスりました?」
(あの場でリタに落ち度はない。最初から俺達に取り入ろうとは考えていなかったはずだ)
「いいや、お前にミスはなかった。ただし、相手側が何か言いたそうにしていたんでな。これは普通のカツアゲではないのかもしれない。そう思っただけだ。決定的だったのは素材をちょろまかしていた事かな」
あの時冒険者達は俺達に何か言い訳しようとしていた。よくよく思い返せばカツアゲとしてはおかしな言動もあった。
「ばれないようにしていたつもりだったんデスけど」
「目は良くてな。視野が人より広いんだ」
冒険中、リタの盗みを見つけた事が決定的だった。ブィンドに戻った時に情報屋に依頼して情報を買った。
「僕をどうするつもりデス?」
「別にどうもしないよ。素材をちょろまかすのは止めてもらえると助かるがな。あとこの事は二人に黙っといてやる」
(リタの事を信用している二人に知らせるのは少し酷だ。世の中知らない方がいい事もある)
これでパーティー内の雰囲気が壊されたくない。このことは時期を見て俺から二人に話すつもりだ。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ。もし、自分で思うところがあるんだったらこれからのサポーターの働きで返してくれ」
俺は水を汲んだバケツを持って、テントの方へ戻った。
お咎めは無しにしました。
一応同情すべき点があるので。