第二百十一話 「!」3
今月第三話。
「コール!」
ジャックのコールに合わせて、壁を一気に走り抜ける。敵の前衛を抜き、後衛にけむり玉を投げ込んだ。
(千里眼発動!)
煙の中に降り立ち、目の前の土ゴブリンに双剣を突き刺す。退化していても視力が完全に失ったわけではない。突然、視界が白くなればパニックになる。
(後衛でも魔導士を優先的に倒さないとな)
土ゴブリンの後衛は魔導士八割弓兵一割、残り一割は衛生兵で構成されていた。
煙での目くらましは有効だがそれはずっと続くわけではない。戦場でグレネード等に敵側がパニック状態になっているのは二十から三十秒らしい。洞窟内でも煙は時間が経てば霧散する。そうなれば俺は敵中に一人取り残される。素早く動き、出来るだけ敵の数を減らす必要があった。
(そろそろ離脱しないとやばいな)
一番近い魔導士に狙いをすましてそのまま突っ込んでいく。俺の存在に気付かれる前に首元と胸を双剣で刺した。
「風初級魔法ウィンドボール」
風の球が俺のすぐ後ろにいたフード姿の土ゴブリンを吹き飛ばした。
吹き飛んだ土ゴブリンは俺と同様に短剣を握りしめていた。
(俺と同じシーフ系の土ゴブリンか。危なかった)
囲まれる前に壁走りで仲間の所まで戻る。
「すまんすまん、つい欲張ってしまった」
「もう、あたしの魔法が間に合ってなかったら危なかったわよ」
「ああ、助かったよドロシー」
これでおよそ敵の半数は倒せた。
「ギ、ギギギ」
一番奥にいたリーダーらしき土ゴブリンが号令を出し、土ゴブリンの集団は撤退を始めた。
「どうするっすか。追いかけるっすか」
「いや、深追いは危ない。罠の可能性もあるからな」
俺達がポーションや毒消しで回復している間リタは黙々と解体で落ちた素材の回収をしていた。
「ジャック、ドロシー二人とも少し休め。見張りは俺がやっとくから」
俺はせっせと素材を集めているリタの方へ向かった。
「リタ、ほれ」
リタに水筒を手渡した。
「ありがとうデス」
「素材をちょろまかすのはいいがほどほどにな」
俺はジャックとドロシーには聞こえない小声でリタに話した。
「!」
リタは一瞬驚いていたが二人に背を向けて俺を睨んだ。
そのまま俺はリタから離れた。
(これで俺がリタの正体を知っていることが分かっただろう。さてどう出てくるかな)
温かくなってきた。