第二百十話 「分かった五秒後頼む」
今月第二話。
ブィンド大洞窟中層の中で一番厄介な魔物は身長約六十センチ、武装をした小柄の亜人種だった。土ゴブリンは洞窟や地中深くに住む亜人種で地上ではほとんど見かけることはない。ゴブリンという名ではあるが近年の研究で土ゴブリンはゴブリン種とは全く違う魔物であることが判明した。
討伐ランクは個体ではEだが、集団になるとDになる。古の頃からの土精霊の血脈が残っているため生まれつき土系統の魔法適正を持っている。
「ギギギ」
俺達の存在に気付いた土ゴブリンはすぐに味方間で連携をとった。ものの十数秒後には陣形が整っていた。
土ゴブリンはずる賢く残忍な亜人種として有名だ。その武器には毒が塗られており、時には罠も使ってくる。肌の色は土色で暗い洞窟で生活しているため目は退化しておりほとんど見えない。しかし、その代わり聴覚と嗅覚が優れており、獲物の位置をすぐに見つけることが出来る。
(土ゴブリンの数は二十、いや二十一か)
「ジャック前任せるぞ。ドロシー炎より風魔法でジャックを援護してくれ!リタは…うん、よしもう隠れているな」
俺も弓と矢筒をエクストラポケットから取り出した。
土ゴブリンの弱点は水と氷系だが今のパーティーでは水攻撃は俺の初級魔法しかない。
まずは牽制しながら数を減らしていく。パーティーの皆には事前にブィンド大洞窟の魔物の特性や戦い方を伝えてある。
「ウォール!コール!」
ジャックは連続でアビリティを使った。自身の守備力を上げてから敵の注意を引く。壁役の基礎的な戦い方だ。
「ギャギャギャ」
アビリティの効果でジャックに土ゴブリンの注意が集まった。
「風中級魔法ブラスト」
突風が集まった土ゴブリンを吹き飛ばしていく。
(俺も仕事しなきゃな)
シュ、シュ、シュ
「グ」
「ゲ」
「ギ」
ジャックの左側にいた土ゴブリンを引きはがしていく。頭部は狙わず体、胸辺りを狙っていく。
(仕留める必要はない。戦闘不能にさえできればいい)
俺が使っている矢にも毒は塗ってある。即死性ではないが一定時間動きを封じることはできる。
「ええい、鬱陶しいっすね。シールドスマッシュ!」
ジャックは盾を横に振り、盾にへばりついていた土ゴブリンを一掃する。巨大な盾を手に入れたことで可能になった技だ。
「ギ、ギギギギッギギギ」
後衛にいた土ゴブリンから岩石が数発飛んできた。
「ドロシー!」
狙いの先にいるのはドロシーだ。
「大丈夫よ」
ドロシーは冷静に岩石を次々と避けていく。
(今のは岩石中級魔法ロックブラストか。やっぱり魔法を使ってくる魔物は厄介だな)
「ジャック、もう一度注意引けるか?」
「…コールにはあと五秒かかるっす」
同じアビリティは連続では使えない、ゲームのクールタイムのように少し時間が経たないと使用できない。
「分かった五秒後頼む」
弓で牽制してから俺は双剣を腰から抜いた。
(一気に切り込んで後衛を混乱させる)
集団戦闘、各々の役割を全うする。