第二百八話 「ああ、ここにテント設営するぞ」
今月第4話。
4月28日 10:00
ブィンド大洞窟 上層 キャンプ地
ブィンド大洞窟に入って約一時間、ここまで難なくたどり着けた。
「フウ、前回よりスムーズに来られたっすね」
「そうじゃなきゃ困る」
俺達はテントの設営と水汲みを分担して少し早い昼食準備に取り掛かっていた。
「水汲んできたわよ」
「お、ありがとうそこに置いといてくれ」
皆の表情も前回より和らいでいるように見える。パーティーの雰囲気も悪くない。
(やはり、早めに撤退してよかったのかもな)
「それなんすか?」
ジャックは鍋の蓋を取った。
「げ、なんすか」
鍋の中身は野菜ジュースだ。野菜を細かく砕いたスムージーはエイラさんから教えてもらったレシピを見ながら作ったものだ。
エイラさん曰く冒険中は栄養が偏りやすい。少しでも栄養を補うための物らしい。
「エイラさん直伝の野菜ジュースだよ」
一口飲んだが確かに健康的な味だがかなり苦い。皆は配った分は飲んでくれたがおかわりは誰もしなかった。
(でも、これはこれで使えるかもしれないな)
俺は野菜ジュースをジルさんと作った薬剤カプセルに入れた。
「それで今日はどこまで行くつもり?」
苦さを和らげるために昼食のサンドイッチを早速食べ始めた。
「そうだな、今日はここを拠点にして調査に徹しようと考えている」
昼食のサンドイッチを食べながら軽く会議を始めた。
「いいと思うっす。上層でも調査することはあるっす」
「了解デス」
今日で出来るだけ上層を調べて、明日中層へ降りる。中層は入り口付近までしか行っていない。拠点にできる場所を見つけながら中層探索が明日の予定だ。
4月29日 9:00
「ジャック一旦引け、ドロシー炎!」
「炎中級魔法ファイヤーランス」
炎の槍がスモールスパイダーの群れを燃やす。
洞窟内で炎魔法は酸素が減るのであまり使いたくないがまだ中層の入り口で広い空間なら問題なさそうだ。
「ジャックさんポーションデス」
「ありがとうっす」
ジャックは防御力が高いが素早い相手と小型魔物が苦手だ。
(冷静に状況を見て、そして戦況に応じて対処を変える)
「キャー、出たー」
「俺の出番すね」
ジャックは現れたオオゲジを大盾で壁に押しつぶした。
新調した大盾なら中、大型魔物でも問題なく相手できる。
「油断するな!」
双剣でオオゲジの脚を斬った。オオゲジは死んでからも暫く動くことが出来る。
「ここはもう中層だ。慎重に行こう」
まだ中層で一番厄介な相手と出会っていない。
中層を探索して一時間、俺達はようやく地下水のたまり場を見つけた。
「ヒロシ!」
「ああ、この近くでテントを設営できる場所を探そう」
「了解デス」
大洞窟やダンジョン内では明確に決まっていないものの冒険者の中で暗黙の了解がいくつかある。干渉しない、奪わない、邪魔をしないだ。要はお互い自分達の事だけに集中して他人に関わるなってことだ。
当然、緊急時は助け合うこともあるだろうし、知り合いと出会ったら情報共有することもありだろう。
「ここなら丁度いいじゃないデス?」
「ああ、ここにテント設営するぞ」
ここなら他の冒険者といい感じに距離が開いているし、水場からも遠くない。
プロのイラストレーターに頼んでよかった。