第二百五話 「そうっすね。俺達は何も見てないっす」
今月第5話。
4月25日 11:00
ブィンド 東口
大洞窟からの撤退を決めた次の日、俺達はブィンドに帰ってきた。撤退を始めてから俺達は上層で出来る限りの調査と素材集めをした。
(あのまま撤退したら完全に赤字だからな。雰囲気は最悪だったが皆黙々と仕事をしていたな)
冒険者は夢の職業ではなく、完全実力主義の世界だ。実力があれば富豪にもなれるし、逆に失敗が続けば貧乏生活が待っている。
ブィンドまでの道のりは静かなものだった。各々問題点があるのは分かっているようで何かを考えているようだった。
(俺の指揮と戦闘力がもう少しあれば変わっていたかもしれない)
「それで次はいつにするっすか」
ブィンドの中央にある広場でジャックがようやく口を開いた。
「そうだ…な。…次は三日後でどうだ。皆準備もあるだろうし、俺もクエストの調査内容をレポートでまとめないといけない」
調査はあまり出来なかったが内容が無いわけではない。上層の内容が主にレポートをまとめるしかない。
「…三日後…分かったわ。それじゃあ、三日後に」
「了解デス。それまで僕は他のパーティーについてもいいデスか?」
リタは妹のためにも休んでいられないもんな。今回しっかりと稼げていたら良かったのだけど。
「もちろんだ。この五日間の報酬もあとで支払う。次も頼むよ」
「それじゃあ」
「お疲れ様デス」
ドロシーとリタは先に去っていく、なぜかジャックだけその場を動こうとしなかった。
「…ジャックどうした?」
「いや、あれってルイスさん…じゃないすか?」
ジャックが指さす方を振り向くと広場の噴水近くで女性に話しかけている男性が見えた。
「うん?」
確かに弓とウクレレを担いでいる冒険者はルイスさんに見えた。
「ねえ、ねえ。俺とお茶しない?」
「そこの美人ちゃん俺とごはんとか…ちょ」
ルイスさんは女性達に次々と声をかけていた。
ルイスさんは俺の弓の師匠でファミリアの先輩。先輩のナンパを見るのはあまりいいものではなかった。さらに女性に相手されず落ち込む姿は見るに堪えない。それはジャックも同じ気持ちだったらしく。
「ジャック、今のは見なかったことにしよう」
「そうっすね。俺達は何も見てないっす」
そのままルイスさんに気付かれないように俺とジャックは静かに広場を後にした。
(ルイスさんがいるってことはケビンさん達が帰ってきているってことか)
ナンパ師ルイス…