第二百四話 「別にクエストを諦めたわけじゃない。今回はあまり成果が出なかったが次に繋がる、いや繋げるよ」
今月第四話。
4月24日 8:00
ブィンド大洞窟 中層
上層を力業で進んだ俺達は五日目中層にようやく辿り着いた。
(予定ではすでに中層の攻略に入っている頃なんだが思っていた以上にペースがかなり遅い)
「行くっすよ」
「…リタ、早くいくわよ」
「は、はいデス」
(パーティー内の雰囲気も最悪だ。クソこのまま中層に行くと危ない気がする。ここで切り上げるか。だが、どう説明するか)
俺は切り上げるタイミングと理由を見つけることが出来ず、パーティーはずるずると中層に向かっていく。それが間違いだったことにはすぐ気づかされる事になった。
「ヒロシ、どうすればいいっすか」
「くそ、一体ずつならそこまで強いわけじゃないのに。ジャック少し耐えていてくれ。リタもう少し近くに来てくれ、松明の火がないと暗闇で戦えない」
中層は上層とは違い光源が無いため、松明がないと暗闇に慣れていない俺達ではどこを進んでいいか分からない。中層に入って早速現れたのは蜘蛛だった。ジャイアントスパイダーのような巨大蜘蛛ではなく、体長50㎝くらいの小型の蜘蛛、スモールスパイダーだ。敏捷性が高く、力も強い。一度飛びつかれると剥がすのに手間取る魔物だ。
「キャ!」
ドロシーがスモールスパイダーに飛びつかれたようだ。
「グワ、ッチこいつらちょこまかと」
次々と仲間達が小蜘蛛にやられていく。
(クソ、実力的に敵わないはずないのに)
「リタ、ドロシーを助けてやってくれ。俺はジャックの方をやる」
「はいデス」
リタが松明を振り回し、スモールスパイダーを追い払った。俺はジャックの鎧に張り付いている蜘蛛どもを短剣で処理していく。
「よし、撤退だ。一度戻るぞ」
「え、俺達はまだいけるっす」
「いいから今回は退くんだ」
まだ戦おうとするジャックの背中を押して、上層まで強引に戻った
安全なところまで退いて、皆にブィンドに戻ることを伝えた。
「何でよ。食料もまだあるし、調査だってまだほとんど出来ていないじゃない」
「ああ、素材もあまり集まっていないしな。だが、このまま進めばパーティーの誰かが取り返しのつかないことになる」
『…』
俺の言葉に誰も言い返してこなかった。パーティー内の空気も連携もなにもかもがちぐはぐな現状を誰もが気付いていた。
ただし、初めての冒険、稼ぎ、実力の過信諸々があり皆が進むことに異論を言わなかった。
(ただ、このまま行ったらきっと誰かが大けがか最悪死ぬかもしれない。そうなる前に帰った方がいい)
「別にクエストを諦めたわけじゃない。今回はあまり成果が出なかったが次に繋がる、いや繋げるよ」
失敗と挫折は誰にでも来る。