第二百二話 「口に合ってよかった」
今月第二話。
4月20日 9:00
ブィンド大洞窟 上層
「出たぞ!今度は蝙蝠だ」
洞窟に入ってから魔物との連戦が続いた。虫に蜥蜴に蝙蝠と洞窟に住む魔物が次から次へと襲ってきた。
「ウォー!」
ジャックは新調した巨大な盾を取り出し、数歩前に出た。
「ジャックはそのまま注意を引け、取りこぼした奴はドロシーと俺で対処する。リタは岩陰で隠れてくれ」
ブラッドバットは動きが素早く、捕えづらい。さらに特性として吸血を持っており、弱った魔物の血を好む。
「風中級魔法ウィンドカッター」
風の刃で翼を斬られた蝙蝠が次々と落ちてきた。
(俺も負けていられないな)
シュ、プス、ドス
襲ってくる蝙蝠を優先的に射抜いていく。
「フウ、終わったす」
ジャックは新調した赤盾を折りたたんだ。新しい大盾は三層になっておりボタン一つで折り畳みから一気に展開できるようになっている。
「ああ」
まだ大丈夫そうだが慣れない地形に初メンバーでのクエストで早くも皆に疲労が見え始めていた。
(今日は早めに安全なところを見つけて休んだ方がよさそうだ)
助かったのは上層には光源となる光る苔が生息していた事だ。ヒカルゴケのおかげで上層では自分達で光源を持つ必要がない。
「リタ、これまでの道のりの地図出来ているか?」
「は、はいデス。ばっちりデス」
リタにはアビリティマッピングで得た地図を紙に記録してもらっていた。
ラウラさん達の情報だとブィンド大洞窟には地下水が貯まった水場がいくつかあり、俺達は上層にある水場を最初の目的地に設定していた。
洞窟内は予想以上に広く、入り組んでいた。幾つも分かれ道がありマッピング能力がないと遭難していただろう。
「ヒロシ、水場があったわ」
近くにテントを広げられる場所はないかな。
「ヒロシここなら丁度テントを広げられそうっす」
「よし、じゃあまずはそこで少し休もう」
『やったー』
まだ入って一時間くらいしか経っていないんだけどな。
「じゃあ、僕は水を汲んでくるデス」
「ああ、俺もついていくよ」
近くにあるとはいえ一人の時に魔物に襲われたら大変だからな。
「ありがとうデス」
「こっちもリタが作っている地図には助かっている。このからも頼むな」
その日はもう少し進んで数回の戦闘後、少し早めに切り上げてテントを張った。
「おーい、飯出来たぞ」
クエスト初日の飯はカリーにした。やっぱり野宿にはこれだよな。
「おいしいデス!」
「口に合ってよかった」
リタは野宿で料理することに驚いていた。冒険者が野外で食べるものと言えば携帯食料や保存がきく干し肉、固いパン等だ。野宿で暖かい食べ物など料理人を連れている貴族か金持ちくらいしか食べられないだろう。
キャンプでのご飯ってなんであんなにおいしいのだろう。